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「希望はマルクスか、アルゴリズムか?」成田悠輔×斎藤幸平が〈22世紀の資本主義〉を語る

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 特に、いまの資本主義経済は、あまりに不平等な金持ちを作り出してしまっている。最近だと125人の富豪たちが排出している二酸化炭素の排出量が、フランス一国とだいたい同じくらいという、とんでもないデータがある。プライベートジェットとか正直なくても別に人間らしい生活ができるにも関わらず、彼らは好き勝手なライフスタイルで地球を破壊しているわけです。

「資本主義をぶっ壊せ」と安易に叫ぶな

斎藤 こうした問題が果たして今より経済成長することによって解決されるか、疑問です。あるいは日本であれば経済成長しないがゆえにますます長時間労働が行われ、要らないものを買わせるためのマーケティングや広告が蔓延しています。

 であれば、むしろフレームワークを変えて、もっと違うアプローチを試すべきじゃないでしょうか。格差をより減らし、本当に必要ではないものを制限していく。

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 そういったアプローチを試すことで、環境によりよいアイデアとか、格差を是正して幸せになれるような方法が出てくるんじゃないでしょうか。こういう風にフレームワークをずらすこともまた、脱成長の実践の一つではないかと思っています。

成田 え、そんなに穏健な話でいいんですか?

斎藤 ひとまずは。

成田 いいんですか? 資本主義をぶっ壊せ、って言わないと大きな物語になりにくい気がしますが。

斎藤 そのバランスはけっこう難しいんです。資本主義をぶっ壊せという話だけでいくと、非常にふわふわした話になってしまう。現実的には、いきすぎた格差を是正する、長時間労働を是正する、といった個別のイシューに応じた対策が必要です。

行き過ぎた資本主義社会に警鐘を鳴らす斎藤幸平氏

 その先に目指すものとして、ある種のコミュニズムは常に念頭に置いておく必要があると考えているんですね。そうでないと、何かひとつの前進があり、そこで満足して終わりという話に容易になってしまう。

 だから、資本主義をぶっ壊せと簡単に言ってしまうとユートピア的になってしまう。

成田 共産主義やコミュニズムみたいな理念を掲げても、それがほんとうに前進や改善になるのか、僕にはよくわからない。

「いま、成長を作り出している経済システムが問題を抱えている」、このこと自体は僕も斎藤さんも、おそらく全員が同意すると思います。ただ、その問題が、徐々に相対的には改善されているように見える事実も明らかになってきている。だから、今の資本主義社会のシステムも少しずつ前進している。