先日、幼馴染だった地元の同級生から突然「この算数の問題、わかる?」と写真付きのLINEが届いた。幼馴染とは言っても私と彼は中学に上がる頃からほとんど関わりがなくなり、私が就職と同時に地元を出てからは彼の名を聞くことすらなくなっていたので、スマートフォンに表示された名前を見てから彼を思い出すまでに数秒かかってしまった。
警戒心を抱き、返事をするか悩んだものの
彼を最後に見かけたのは確か共通の知人の結婚式のときで、今から10年ほど前、ちょうど20歳くらいの頃だった。そのときも彼と話すのが7年ぶりということもあってよそよそしく「久しぶり」と言葉を交わしただけで、それ以来、今日に至るまで一切の関わりがなくなっていた。
そのため、送られてきた「食塩水の濃度を求める問題」の画像と「この問題の解き方わかる?」という意味の文面を見て、率直に「どうして私にそんなことを聞くのだろう」と不思議に思った。
私は家庭に問題があり、過去に地元から逃げるように県外へ移住している。家族にも居場所を知られたくないため、ごく限られた友人以外の地元の人間とは、ほとんど連絡を取らないようにしている。そんな事情から、特に幼馴染で私の家族とも面識のある同級生に対しては警戒心を抱かずにはおれず、返事をするか数時間悩んだが、恐る恐る返信をしてみることにした。
「頭いい人、俺の周りにはおらんからさ」
「なんで?」と簡単に返事をすると、すぐに「食塩水の重さは水と塩の重さを足して導くのはわかるけど、濃度の違う食塩水を混ぜたあとの濃度の計算方法がわからない」と返信が届いた。とっさに「ググればすぐ公式が出てくるだろうに」と思ったが、全ての人がインターネットから自分の欲しい情報を的確にピックアップすることができるわけではないことを思い出し、順を追って濃度の計算について説明する。
最後までこちらの話を聞けず、途中でなんども「あ、これとこれを足せばいいのか」「あれ、違うか」という風にLINEを連投してくる同級生にその都度「どうして足すと思ったのか?」と確認しながら認識を修正していく作業は骨の折れるものだったが、学生時代に塾講師のアルバイトをしていた経験からか、不思議と苦痛には感じなかった。
ようやく正解にたどり着いた同級生からは、感謝の言葉とともに「助かったわ。周りにおらんからさ、教えてくれそうな人」という文面が届いた。「聞けば誰かが教えてくれたでしょう」と返すと、今度は「いやいや、探したけどそもそもこんなん解けるぐらい頭いい人、俺の周りにはおらんからさ(笑)。確か大学出てたやんな? やから吉川ならわかるんちゃうかなと思って」と返ってきた。
食塩水濃度の計算問題は小学生高学年から中学生くらいで習うため、義務教育を終えている彼は類似問題を授業やテストで一度は目にしたことがあるはずだと思ったけれども、よくよく中学生時代を思い出してみると彼は当時あまり授業に出ていなかった。校則に違反して金髪で登校したり教師に反発したりといわゆる「不良」らしい振る舞いをしていたので、義務教育レベルの学力が身に付かないまま卒業してしまったようだ。