夫の逮捕理由は「監護者性交等罪」
夏菜子は2020年10月を忘れない。晃が「監護者性交等罪」で逮捕された日だ。夏菜子は警察に告げられる。晃の「性交」相手が16歳になる娘の美香だということを。夏菜子には不思議な納得感があった。夫が逮捕されるひと月前、9月に夏菜子のもとには書状が届いていた。差出人は児童相談所。書面は美香が児相で保護されていることを告げる内容だった。
「夫がしでかしたことではありますが、娘が日々滲ませていたはずの『助けて』のサインに気づくことができなかったことを今でも強く後悔しています」
かつての4人家族を振り返る夏菜子の目には、大粒の涙が浮いていた。
「パートや下の子の世話という日常に追われて、娘に向き合うことができていませんでした。なにより、夫がまさか娘に手を出すなんて想像したこともありませんでした。愛していたから、盲目になっていたから周りが見えないのも仕方ないと言ってくださる方もいますが……」
晃の逮捕の日から、夏菜子は自分を責め続けてきた。
「もっと早くに気づいてあげられればよかった。あの時もし気づいていたら、あの場所でもし気づいていたら。そのことばかり考えています」
夏菜子の目に映っていた幸福な家族の姿は、彼女の目の届かないところで確かに壊れ始めていた。最初のひずみは光輝が生まれてすぐの2014年の春に生じた。光輝は軽度の知的障害を持って生まれてきた。日常生活に支障はないものの、身体にもわずかな障害を負っている。
「どうしても光輝のほうにばかり注意が向いてしまっていました。娘はまだ11歳でしたが、母親の私が忙しそうにしているのを敏感に感じ取ったんでしょうね。本当に手のかからない子供でしたし、私もしっかりした美香に甘えていたのかもしれません」
生まれて間もない時期の光輝には、手術が必要なことがたびたびあった。1週間程度の入院で済むものだったが、幼い息子に付き添うために夏菜子は病院で寝泊まりする必要に迫られた。母親のいない家には、晃と美香だけが残された。親が子に与える慈しみとはほど遠い肌の触れあいをきっかけにして、義父の連れ子に対するおぞましい暴力はこの頃から始まった。
「警察の調べでわかったことですが、私を病院に送ってくれた帰り道に寄ったコンビニエンスストアで、夫はコンドームを買っていたそうです。家に帰っても、小学生の美香が待っているだけなのに……」