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《NHK大河「どうする家康」》脚本・古沢良太が語った松本潤と有村架純の今後と、頼りにする“実力派俳優”

有働由美子のマイフェアパーソン 第49回

note

 古沢 制作統括の磯さんが人伝に僕のメールアドレスを聞いて連絡してくださって。会ってみたら「23年の大河を書きませんか」という話で、「直近の作品と被らない戦国時代を扱えるタイミングなんですが、好きな武将や描きたい歴史上の人物はいますか」と。

 有働 そんな感じなんだ。あらかじめ主人公が決まっているものだと思っていました。それで古沢さんが家康を選ばれたわけですね。

ウクライナ戦争の今、戦国時代を従来のように描くのは厳しい

 古沢 家康には魅力を感じていましたが、ただ家康を賛美したいわけではなくて。1年間どんなドラマだったら面白いかを考えたときに、家康公の人生をお借りしたいなと。戦国時代の面白さは、常に死と隣り合わせで生きるか死ぬかの究極の選択を迫られること。毎回ハラハラドキドキするようなサバイバル物語になるなと思ったんです。

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死後、神格化され語られることの多い徳川家康

 有働 早速、第1話のタイトルが「どうする桶狭間」ですもんね。いまはウクライナ戦争が長期化し、日本も物価高など先行きの見えない世の中ですが、意識されますか。

 古沢 意識せざるを得ないですよね。長らく戦国時代って、誰が天下を取るのか、ロマンありきで描かれてきました。でも、僕らは今、街に爆弾が落ちたり、地下シェルターで子どもが泣いている姿を、携帯ひとつで身近なこととして感じられる。殺し合いの戦国時代を、従来のように描くのは厳しいですね。

 有働 それは分かるなあ。

 古沢 織田信長・豊臣秀吉・徳川家康の戦国三英傑が幸せだったとは思えないんです。家康は好んで、あの時代に、弱小国のプリンスとして生まれたわけではない。別に天下を取りたいわけでもなかったと思います。必死に悩み、もがき、半ベソをかきながら、信長や秀吉をはじめとするモンスターたちに食らいつき、命からがら乱世を生き延びていった。そんな誰もが共感しうる現代的なヒーローなのではないかなと。

 有働 今は何話目まで書いたところですか。

 古沢 半分ちょっと超えたところです。

 有働 順調なのでは?

 古沢 ちょっと焦っています。どこかですごい修羅場が来て行き詰るのではないかと不安で。思ったより時間がかかっていて、もう少しペースを上げていきたいですね。

 有働 一話書くのにどのくらい時間がかかるんですか。

 古沢 大体2週間かかります。

 有働 何が一番大変ですか。

 古沢 まず、勉強しないといけないんですよ。家康は史料が数多く残っていますから。時代考証の先生方に「このとき、この人はここにいません」と、ご指摘を受けたりしながら書いています。

 有働 大河ドラマ『真田丸』でナレーションを務めたとき、考証の先生が3人ほどいました。収録直前に先生からの指摘で台本に修正が入って。「むしろ分かりにくくなっちゃうけど、本当に変えるんですか?」と言うと、「どうしてもこの説明じゃないとダメなんです」と。

 古沢 台本に入る先生の赤字チェックが恥ずかしいですね。現代でも使う敬語まで間違って余計恥をかいています(笑)。

 有働 天下の古沢先生でも赤ペン先生は容赦ないですね(笑)。

 古沢 物語上の都合で人物を動かせないときや、時代考証に沿った言い方にして面白さがなくなっちゃうときは、こちらのワガママを通させてもらっています。でも、先生方のご指摘はとても勉強になります。

 有働 半分まで書かれてみて50話近い大河は長いと感じますか。

 古沢 家康の人生はあまりにいろんなことがありすぎて、書きたいことが山ほどあります。そういう意味では足りないぐらい。でも、その分物語の展開をはやく進めているので、これまでの大河になかったようなスピード感で展開していくのは見どころの一つだと思います。

 有働 これから1年間、家康を演じる松本潤さんに期待することは何でしょう。