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「タイにはヘビ屋という専門家がいるんです。その人に全部仕込んでもらって何百匹っていうヘビを用意するんですよ。会議で出たアイディアでしたね。でもね、専門家は付いてるけど用意した無数のヘビには猛毒がありますからね。実際に何が起こるかはわからない。でも我々隊員はディレクターから『行け!』って言われてしまう(笑)。上からヘビが降ってくるわけだから。現場は修羅場ですよ」

 “嘘”のなかで起きる“本当”。私が唸ってしまったのは藤岡が現場でのAD仕事を我々に説明しているときに「ロケの途中にガラガラヘビが道を塞いでいたら、ADはそいつを捕まえて排除しなくちゃいけない」と言ったときだ。

 藤岡は当然のように言っていたが、よく考えたらすごいことである。カメラが回ってからの安全のために、カメラが回っていないところでは危険な冒険のような状況が普通に存在している。もはや探検隊ロケはどこからがロケでどこからが探検かわからない。嘘と本当が混然となっている摩訶不思議な空間。

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「危険な目にはたくさん遭いますよ。僕が一番危ない思いをしたのはベネズエラだったかな。渓流みたいな急な流れの川があるんですよ。で、そこに落ちるっていうシーン。泳ぎは得意なんですが、探検服着て登山靴履いてるじゃないですか。あれで飛び込んだら、重たくて泳げないし、死ぬかと思いましたよ、ホント」

 リハや段取りはないのだろうか。

「イケるだろうみたいな前提で全部やっていく(笑)。だから飛び込んで死にそうになってる映像は真実なんですよ」

 フェイクのなかにリアルが紛れ込んでいる瞬間が頻繁にあるのだ。ちょっと刺激的すぎる。

「あと、ブラジルキャニオンを降りていくシーンがあったんです。実際にロープを使って懸垂下降した。でもそんな経験なんかしたことないじゃないですか?  だからテレ朝で1回練習したんです」

 本当の探検のトレーニングと変わらない。

「テレ朝の近くに5メートルぐらいの壁があったんですよ。そこで専門家に『こうやるんだ』って紐を垂らされてね」

 その結果“本番”ではどうなったのか。

「5メートル10メートルどころじゃない。行ったらいきなり200メートルだったんですよ」

 桁が違いすぎる……!

「ありえないでしょ。そこを降りていくわけですよ、初めてですよ、ド素人ですよ。1回しか練習してない」

 危険すぎる……。

「もちろん命綱は着けてもらってた。でも素人だから体ガチガチになってね、途中で手を離そうかと思うくらい辛いんですよ。特に怖いのは洞窟の崖です。真っ暗だし足をかけるところが何もない。 メートルぐらい下まで宙づりのままで降りていきますからね。怖いでしょ。それをド素人にやらすんですからね。落ちたら本当に死んじゃいますから。本物の登山家を連れて行ってはいたけど」

4日費やしてついに…巨大怪蛇の奇跡

 この話は「暗黒の怪“光る河”はブラジル死の妖気大洞穴に実在した  」(85年4月24日放送)の回のことだ。藤岡の話を聞くと、サブタイトルの「恐怖!  キャニオン断崖300メートル垂直落下瞬間」は紛れもないドキュメントシーンであることがわかる。とくに「恐怖!」の部分はスタッフの本物の叫びだろう。

 しかし「暗黒の怪“光る河”」については……。

「光る河というか、そもそもブラジルキャニオンの下に洞窟なんかないです(笑)。でもね、ブラジルの全然違う場所に光る河はあるんですよ。その映像を撮ってきてくっつける。光る河ってこっちで付けた名前だけど、キラキラしてるような河はあるんです。それがブラジルキャニオンの下にあったらロマンじゃないですか。

 それから双頭のヘビ(ゴーグ)。ふたつ頭の。今だったらたぶんCGとかで作れるんだろうし、あとの編集時の映像処理でなんとでもなるんだろうけど、やっぱり双頭のヘビっていないですよね。じゃあどうするかって言ったら、2匹のヘビを重ねるしかない。

 他の回では大蛇が湖を泳いでくるシーンもあったんですよ。でも湖を泳いでほしくても、ヘビって そんなに言うことを聞いて泳いでくれない。頭を上げて泳いでくれって言われたってそんなことでき ないですよね。そしたらやっぱり、こっちで頭を上げなきゃならないんですよ。テグスとか釣り糸を使って頭を持ち上げさせないと。でもそうなると今度は必ず糸が見えちゃうわけです、カメラの中に。この回は僕は行っていないから、ディレクターに聞いた話ですけどね」

 この回はおそらく「巨大怪蛇ナーク」(80年7月20日放送)のことだろう。

「で、どうやっても糸が見えちゃうんだって。これはダメだって言いながら3日ぐらい試してね、何度も何度も。ヘビもご苦労なことですけど。で、ずっとダメだったんですけど、4日目に消えたんですよ」