──え? 消えた?
「うん。糸が。なんで消えたと思います?」
──細いやつをどこかで見つけたとか?
「雨が降ったんですよ」
──なんと!
「そしたら見えなくなったんです(笑)。そこまで誰も計算してないです。なんとかなるだろうと思ってやってんだけど、なんともならなくて、でも、最終的にそのシーンが撮れたのはよかった(笑)」
──日光が入らなくなったときに。
「そうそう。光らないし、雨でごまかせるし。今みたいにデジタルのあんなに良い画質でもないし。当時の画面だからね。だから目立たないようにうまく撮れたと。そういうことはありますよね」
欲しい映像のためには、何日も費やす。結果撮れたのは、偶然の産物か、探検隊の執念ゆえか。話 を「双頭の巨大怪蛇ゴーグ」に戻す。そうは言っても、もっともらしいことをするためにヘビが2匹、これは絶対外せないわけですね。
「それは外せないでしょ。それは偽物ではできない」
虚々実々。基本は“虚”だが、垣間見えるスタッフの苦労やうめきは“実”。
「あ、痛っ!」という川口隊長の叫び声
そんな番組の中でも有名な事件といえば、川口浩隊長がピラニアに噛まれて大流血というシーンだろう。1983年6月22日放送の「恐怖! ブラジル魔境に人食いピラニア大軍団を追え!! 逆襲死闘」のなかでそのショッキングなシーンは流れた。
ピラニアが異常発生しているという沼にたどり着く探検隊。番組はまずこの魚の獰猛さを実験する。釣り上げた一匹のピラニアをエサにして再び沼に投げ込み、ほどなくして引き上げると、なんと頭しか残っていなかった。
「こんなところでもし誤って沼に落ちてしまったら……」とテレビを見る少年(私)が恐怖の妄想をしていると、画面の向こうで事件は起きたのである。
「あ、痛っ!」という川口隊長の叫び声。カメラが慌てて映すと、川口隊長が死んだと思っていたピラニアに指を噛まれて右手が大流血となっていたのだ。「ビリッときてカミソリで切られたみたいだよ」と悲痛な顔で、しかしきちんと状況を報告する隊長。
当然、翌日の学校でも話題になった。あれは事故か、それとも演技か? と。
「あれは本当の事故です」藤岡は即答した。