「たしか撮影が終わってたときかなぁ? 死んだピラニアがいたんですよ。で、川口さんがどかそうと思ったのかな? パッと手をやったら、口の中に手が入って噛まれちゃったんです。触った瞬間にガッとやられて。で、指がちぎれそうになった」
本当の事故が番組に混じっていたのである。他にもこういったことがあった。
「洞窟でロケをしたときです。人がほとんど入らないところで大変だったんですよ。上のコウモリもきついんですけど、下が糞だらけなんですよ。ドワ~っと糞の層があるんです。そこを探検隊が入っていく。靴はもちろん履いてるけど、そこを歩き回るわけです。ムカデとかいろんなわけのわからない虫とかいっぱいいますよね。ぼくはダニみたいなのに噛まれて、ぐちゅぐちゅと足に卵を産んだりなんかして、1年ぐらい足で飼ってましたよ(笑)」
この話が衝撃的なのは、ロケのあと1年間もそんな目に遭いながらも「地味なエピソード」なので、その過酷さが番組にまったく反映されていないことだ。
「絵的に圧倒的に地味だから。暗いしよくわかんない。そもそもダニなんて映らないし(笑)」どれだけリサーチしたとしても、大自然に潜むリスクや危険は、計りきることはできない。
「大変なんですよ。そういう場所は」藤岡は事もなげに言った。
「ガチで大変なことはあるんですよ。虚と実というか、そういったガチのシーンも、絵で伝わるのならばストーリーの中に組み込みます。それはあの頃のテレビが“視聴者をどう面白く騙すか”だから当然ですよね」
川口浩の妻・野添ひとみは、川口が死去後に出版した著書でピラニア事件について次のように書いている。
《ブラジルの奥地アマゾンで、いちばん近い村まで六、七時間という場所でキャンプ生活をしていたとき、ピラニアに中指をガブっとかまれ、三分の二ぐらいとれかかり、ロケ隊のスタッフが医者のいる村まで行ってくれというのに、
「大丈夫だよ」
本人はケロッとして、包帯をグルグル巻いただけ。次の朝、本人が包帯を取り替えようとしたら、指がズルッとずれて、あわてて車を飛ばしたそうですけど、あれから指先が曲がったままでした》
(『浩さん、がんばったね』1988年、講談社)
まさに藤岡が言う「嘘と本当の狭間のバラエティ」に力を注ぐキャストとスタッフの姿がみえる。それが、今もこうして語り継がれる番組となった理由なのだろう。