「リリースからまだ2年足らずなのに、早くも見直しを求める声が現場から噴出しています。使い慣れてくれば不満は少し収まるでしょうが、サポート料が割高なことなど他にも問題が多いので、このほど情報システム部は見直し作業に着手しました」
(2)の産業用エンジン事業の撤退については、社員を含めて事業を丸ごと他社に売却する予定でした。事業売却は実現しましたが、労働組合の反対によって相当数の社員が会社に残りました。残った社員の人件費の分、以前よりも損益が悪化しました。
(3)の環境関連の新規事業については、専門の営業部隊を立ち上げて事業を開始しました。しかし、成長する環境分野では各社の競争が激しく、受注が想定を大きく下回りました。納入後のトラブルも多く、毎月の赤字が増え続けています。プロジェクトでは「事業ありき」で、事前の市場調査と採算分析が甘すぎました。
「赤字でも事業が上向きならまだ良いのですが、赤字が拡大し、受注拡大を見込めないとなると、気持ちが揺らぎます。いま経営企画部内では、新規事業を“長期の最重要課題”に格上げ、といっても棚上げし、戦線を縮小するよう検討しています。社長をどう説得するか、頭が痛いところです」
結局、A製作所は、K氏の会社に1億円近いコンサルティング料(システム構築費を除く)を払いましたが、成果がなかったばかりか、社内が大混乱しただけに終わったのです。
それでも社長はK氏にぞっこん
さらにS部長によると、K氏は自分の利益のためにA製作所を食い物にしていた可能性が高いということです。
「基幹業務システムのベンダーは、プロジェクト内では別の会社でほぼ決まっていたのですが、社長の鶴の一声で一転S社になりました。やはりK氏からの強いプッシュがあったようです。最近、K氏とS社の癒着をあるIT業界関係者から耳にしたので、調査を始めたところです」
散々な結果に終わった今回のプロジェクト。しかし社長は、コンサルティングが失敗だったとは考えていません。K氏の戦略構想はすべて正しく、いずれ成果が出るはず。まだ想定した成果が出ていないのは、社員の努力が足りないのとK氏の考えに付いて行けない社員のレベルの低さが原因だという認識です。
さらに社長は、今でもK氏のことを「経営の師匠」と崇めていて、機会があればまた指導を受けたいと考えているようです。
「K氏の経営の知識は大したことありませんが、人たらしの才能には感心します。コンサルタントなんかより、宗教でもやった方がよっぽど成功したんじゃないでしょうか」