文春オンライン

「先生は逃げたんだな、と思いました」逮捕された中学教師が命を絶った男子生徒への強制わいせつ事件。被害者が初めて思いを明かした

2023/01/21
note

トイレの個室に押し込まれ…

 中3になると、その教諭は担任になる。逮捕容疑の強制わいせつがあったのは、5月13日の授業後の掃除の時間だった。

「僕がいた班は、トイレ掃除を担当していました。僕はモップを使っていたんですが、モップの先を便器の中に入れるふりをして遊んでいました。ふざけていたことを班員の誰かが先生に言いに行ったんです。その先生が、逮捕された担任でした。

 そのときは、担任には『本当にやったら、掃除はやり直しだからな』と言われただけでした。掃除を終えると、班長である僕が担任を呼びに行きました。そのとき、トイレにやってきた先生は僕を押して、『次やったら、個人レッスンだからね』と言ったんです。ニヤニヤしていました。

ADVERTISEMENT

 そして、そのままトイレの個室に押し込まれたんです。僕が個室の奥で、先生が個室のドア側でした。個室の便器と壁の隙間に押し込まれて、そのまま股間を触られました。個室にいた時間は10秒ない感じだったと思います。触ったのは、感覚としては数秒。ですが、されたこと自体がきつい。抵抗できない状況でした。ただし、他の生徒たちにとっては、死角になっていたので、何をされたかは見えないと思います」

筆者の取材に応じる野島ヨウヘイさん(仮名・左)と母親(右) ©渋井哲也

フラッシュバックした過去の痴漢被害

 実は、野島さんは、小2のときに一度痴漢にあっている。

 母親によると、プールの帰り道で周囲は暗くなってきた時間帯だった。母親は車道側で自転車を押していた。野島さんは歩道を歩いていた。途中、車道と歩道の間に植物があり、母親から野島さんは死角になった。そのとき、男子中学生に痴漢された。警察に被害届を出し、中学生は補導されたという。

 トイレ個室内で被害にあったとき、過去の痴漢被害がフラッシュバックした。そのため、野島さんは「これはやばいな。終わったな」と思ったという。

「中2のとき、先生と会話していた流れでトラウマの話になったんです。そのとき、痴漢被害のことを話しています。先生は『大変だったね』と言っていました。授業の間の休み時間だったので、チャイムが鳴って、そのままになり、その後は特に話題になりませんでした」

 痴漢被害のトラウマがあるにもかかわらず、野島さんを不用意にスキンシップをする対象にしたり、10秒に満たないまでも、トイレの個室で股間をさわったのは、一体なぜだったのか。自殺してしまった今では、その動機を知ることもできない。