2022年9月、富山県の神社で、誰もが「こんなの持てるわけがない」と言うほど重い石がいつのまにか約10メートルも移動していたことが判明。6つの石の中には100キロを超えるものもあり、わざわざ重い順に並べられていた。一体誰が何の目的で? 地元の人々は首をひねり、この不思議な出来事はローカルニュースにも取り上げられた。
報道後に「それは自分の仕業です」と名乗り出たのが、そばつぶさんだ。彼は“力石”という力試しの文化に魅せられて、自力で石を担いで動かしたのだという。なぜ彼は力石の布教に燃えるのか? そこには力石の愛好家を悩ます切実な事情があった。(全2回の1回目/後編を読む)
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「このニュースってお前が犯人じゃないの?」
――「神社の石を自力で移動させた力持ち」として話題になり、そばつぶさんは北陸のローカルニュース番組などで引っ張りだこでしたよね。今回で取材は何件目ですか?
そばつぶ 5件目くらいです。まさかこんなに反響があるとは……。力石の文化は世間でほとんど知られていませんし、ここまで注目されるものかとびっくりしています。
――自分の動かした石がニュースになっているのを知ったとき、どんな気持ちでしたか?
そばつぶ 知人から「このニュースってお前が犯人じゃないの?」と連絡が来て事態を知ったんですが、「これは世間で叩かれる!」と完全にテンパリました。
関係者の方々にものすごく叱られて最悪の場合は警察沙汰になるんじゃないかと頭は真っ白でしたが、とにかくまずは謝罪しなければと、その神社、神明社に連絡することを決めました。
――そばつぶさんの謝罪に対して、神明社の方々の反応はどんなものでしたか?
そばつぶ 自分の焦りと裏腹に「あっ。そうなんですかー。力石に興味を持ってくれてありがとうございます」という平和な反応で、全く怒られるようなことはなく、とてもありがたかったです。
――そもそも、なぜ石を動かしたんですか?
そばつぶ 自分は神社の境内などに置かれている石を持ち上げて力試しする“力石”の文化に興味を持ち、趣味で各地の石を担ぐ様子をSNSで発信しています。
神明社にも力石があると聞いて伺ったんですが、境内の片隅で石が土の中に半分埋まっているような状態だったんですよね。
「せっかくの歴史ある力石なのに、こんな場所にあったら気づいてもらえないだろう。もう少し人目につきやすい広いところに移動させてあげよう」と、独断で移動させてしまいました。
自分の勝手な行動で世間をお騒がせしてしまって、本当に申し訳ないことをしました。
――この件をきっかけに、神明社の力石の保存場所を新たに用意することが検討されています。そばつぶさんは神明社を再訪問して、また石を動かしたそうですね。