可愛い犬がぴょーんと飛び跳ねる瞬間をスナップしたのは、写真家エリオット・アーウィット(1928年~)です。ロシア人の両親のもとにパリで生まれ、イタリアで幼少期を過ごした後に家族でアメリカに移住。若くして認められ、25歳にしてロバート・キャパの紹介で世界最高峰の写真家集団マグナムに加わります。

 アーウィットの写真はユーモアに富んでいて、人生の悲哀も感じさせます。彼はそのような感覚を、対照的なものの取り合わせによって表現することが多いようです。

 例えば、人間とマネキン、実体と鏡やガラスに映った像、ひょうきんな表情と武器といったような組み合わせなどがそう。しかもマネキンの方が人間なのかと一瞬勘違いしてしまうような、はっとさせるやり方なのです。

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 では、本作ではどんな対比が見つかるでしょうか。なんといっても、動物である犬と人間、そしてその対照的なサイズです。他にも、犬の背景には空や木々といった自然、飼い主の背景には人工的な建築物、という動物と人の対照的な関係が表れています。さらにリードに繋がれた犬は、まるで自由を求めて飛び立とうとしているようで、一方の飼い主はどっしりと両足を地面につけています。

エリオット・アーウィット「Paris, France」
1989年 何必館・京都現代美術館蔵(写真集『Elliott Erwitt』より引用)

 アーウィットは犬好きで知られ、『我われは犬である』(JICC出版局、1992年)という写真集を出しているくらい。本作の構図は、犬が全身像であるのに対し人間は腰から下のみという切り取り方が特徴的ですが、アーウィットは似た構図で何枚も撮っています。中でもニット帽に困惑した表情のチワワで知られる「New York City」(1974年)はブーツの広告写真で、人間のモデルの顔を写さずブーツに注目する口実としてもちょうど良かったそうです。

 どんな犬を連れているかということは、着ている洋服と同じくらい社会的な記号で、飼い主について多くを語るものだとアーウィットは同写真集で言っています。本作の小さいもふもふの犬と、ダボッとした服装で足をハの字に開いたポーズは、飼い主の穏やかでほっこりした印象を生んでいます。しかも犬も飼い主も互いの方に体を少し傾けていて仲が良さそうです。

 さて、この犬が跳ねている理由ですが、本作が展示されている京都の何必館館長がアーウィット本人から聞いた話によると、後ろの男性に音を立ててもらったというのです(2022年12月2日産経新聞大阪版夕刊)。後ろに小さく映っている男性が、その役を請け負った人物でしょうか。犬がちょっと可哀そうな気もしますが、アーウィット自身もリアクションを求めてしばしば犬に向かって吠えてみるということです。

 何必館はアーウィット本人が実際に訪れ撮影をした場所でもあり、そのときの作品も展示されています。こちらもアーウィットらしい対比があるので、撮影したスポットを探してみてください。

「エリオット・アーウィットの世界 Elliott Erwitt展」
何必館・京都現代美術館にて1月29日まで
http://www.kahitsukan.or.jp/

●展覧会の開催予定等は変更になる場合があります。お出掛け前にHPなどでご確認ください。