ということは、「柔軟性が蘇らない五十肩」もあるのだろうか。答えは「ある」だ。鈴木医師が続ける。
「放っておけば治る、という理解は正確ではなく、『自然に治る五十肩もある』というべきでしょう。何年待っても硬くなったままの人もいて、この場合は手術で治すしかありません。肩関節を包んでいる関節包に電気メスで切り込みを入れて可動域を広げていきます」
内視鏡手術なのでキズは小さくて済むが、3日から1週間程度の入院を必要とする。
しかし、話はこれで終わらない。中にはもっと大掛かりな手術が必要なケースもあるのだ。
誤解2:症状が似ている「腱板断裂」
患者も医師も五十肩と思っていたのに、実は違う疾患だった――ということがある。「腱板断裂」だ。
ケンバンといってもキーボードのことではない。ここでいう腱板とは「回旋筋腱板」といって、肩甲骨から腕の付け根を覆うように伸びる4枚の筋肉のこと。これがあるから肩は外れることなく自由にグルグル回せるし、その先にある腕や手首の微妙な動きによって、シャツを着る、シャツの裾をズボンの中に入れる、といった「日常では気付きにくいが実は複雑な動き」が可能になるのだ。
「4枚ある腱板の中の1枚でも、断裂したり、断裂しかかっていたりすると、五十肩とよく似た症状が出ます。痛みはもちろんですが、もう片方の手を使わない限り、腕を上げることが難しくなります。ただ、五十肩と症状が似ているため、肩の治療が専門でないと、整形外科医でも見逃すことが多い」(鈴木医師)
本来、肩の痛みがある、肩の可動域制限がある(一定の角度以上に曲げられない)、そして変形性関節症や腱板断裂などの病変がない――という条件を満たした時に五十肩と診断されるのだが、実際には、好発年齢の40~60代で、転倒やぶつけたわけでもなく自然に肩に痛みが出たケースを、自動的に五十肩と診断している医師は少なくない。
しかも、医師の中にも「五十肩はそのうち治る」と考えている人がいて、電気を当てる温熱療法や、あまり意味のないリハビリでお茶を濁しているケースもある。それでもその患者が「自然に治る五十肩」ならいいが、「手術しないと治らない五十肩」や「腱板断裂」だったら悲劇だ。特に腱板断裂は、それを疑ってMRIを撮らないと見つけられない。整形外科医のすべてが腱板断裂を念頭に置いているわけではない――ということを、患者のほうが念頭に置いておく必要があるのだ。
ちなみに、腱板は部分断裂なら自然に治ることもあるが、完全に断裂していると、手術をしないと治らない。なのに、「そのうち治る」と信じて、何カ月も何年も、電気を当てたり湿布を貼ったりして、様子を見続けている患者と医師がいる――。はたしてここは、本当に医療先進国なのだろうか。