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「五十肩」4つの誤解――50代しかならないと思っていませんか?

パソコンやスマホの多用で20代で五十肩になるケースも

2018/01/30

 五十肩は不憫だ。

「肩関節周囲炎」という厚生労働省も認めた立派な疾患名があるのに、「五十肩」などという安っぽい俗称のせいで軽く見られている。

 同じ整形外科の疾患でも、たとえば「骨折」などは世間の見る目が違う。ギプスや包帯、時に松葉杖など、見た目に派手な装具が登場することもあって、社会として「労わろう」という機運が生まれる。人々は口々に「気の毒に」「お大事に」と優しい言葉を口にする。誰しも心のどこかに「ギプスへの憧れ」はあるはずだ。

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 その点五十肩には目立った装具はない。窮状を周囲に知ってもらうには自己申告に頼るしかなく、伝えたところで「もうそんな年なのね」と馬鹿にされるのがオチだ。患者は断続的に襲い来る激痛に耐え忍びながら、薄ら笑いを浮かべて生きていかなければならない。五十肩は人を卑屈にする。

 なぜそう断定的にひがむのかといえば、この原稿を書いている男(52)がいま、五十肩の当事者だからなのだが……。

弾力性に富んでいなければならない肩の筋肉が硬くなる

 五十肩の痛みは激烈だ。腕の可動域が狭まり、それを越えた瞬間、雷に打たれたような激痛に襲われる。わかっているならそんな姿勢をとらなければいいと思うかもしれないが、五十肩になって日の浅い人には、五十肩になる以前の長い人生で身についた癖がある。電車で立っている時に揺れれば咄嗟に吊革をつかもうとするし、飛行機が目的地について周囲の乗客が一斉に立ち上がると、つい「我も」と頭上の棚に腕を上げてしまう。習性だから仕方ないのだが、それを五十肩は見逃してはくれない。必ず、確実に、激痛を見舞うのだ。

鈴木一秀医師

「肩の周囲の筋肉や関節を包んでいる関節包に炎症が起きて、その炎症が治る過程で拘縮(硬くなること)が起きる。この状態が五十肩です。本来弾力性に富んでいなければならない筋肉や関節包が硬く縮こまるので、動かせる範囲が狭まり、無理に動かそうとすると痛みが出るのです」

 そう説明するのは、川崎市麻生区にある麻生総合病院スポーツ整形外科部長の鈴木一秀医師。

 同医師によると、痛みが起きるメカニズムはわかっているものの、最初になぜ炎症が起きるのか――は解明されていないという。

誤解1:「五十肩」は自然に治癒する

 五十肩は、江戸時代にはすでにその存在は認められており、「五十腕」「五十肩」と呼ばれていたことを示す文献が残っている。当時の平均寿命を考えると、明らかな長寿病だ。

 その文献には「程過ぐれば薬せずして癒ゆるものなり」とある。現代人の中にも「五十肩になったけれど、放っておいたら治ったよ」という声は多い。

 その理由を鈴木医師はこう解説する。

「硬く縮こまった筋肉や関節包が時間の経過とともに柔らかさを取り戻していくケースは確かにあります。多くは数カ月、人によっては1年以上の月日をかけて元に戻っていきます。元の柔軟性が蘇れば、痛みもなくなるのですが……」