後楽園にある東京ドームシティの「スパ ラクーア」が今年5月で開業20年を迎える。20年前の2003年には、奇しくも「東京お台場 大江戸温泉物語」(2021年9月閉館)と「豊島園 庭の湯」(現在も営業)がオープンし、“都心スパブーム”が巻き起こった。いずれもハイレベルの温浴施設だが、いまなお圧倒的な人気を誇る「ラクーア」の秘密に、温泉エッセイストの山崎まゆみ氏が迫った。(全2回の1回目/後編に続く)
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実は、東京は大温泉地帯
実は、東京は大温泉地帯である。昭和30年代に再認識されたのが大田区蒲田周辺を中心に湧く「黒湯」。温泉好きの間では有名だったが、東京で天然温泉に入れるとは、一般的にはほとんど知られていなかった。
「黒湯」はその名の通り、お湯は真っ黒。濃淡の差はあるが、墨のように濃い黒から、コーラくらいの色あいまで。成分は植物が微生物によって分解されて作られたフミン酸(腐植物質)。アルカリ性で重曹成分が入っているから、肌の角質や汚れを落とす作用がある。黒い湯に浸かっていると、入浴後は肌がつるつるになる。
その後、掘削技術が発達し、深度1500メートル以上でも温泉を掘り当てることが可能になり、都心スパが誕生した。2003年3月には「東京お台場 大江戸温泉物語」が、同年5月には東京ドームシティに「ラクーア」が、同年6月にはとしまえん(2020年8月閉園)に隣接した「豊島園 庭の湯」が立て続けにオープン。3つの施設が競い合いながら、都心における温泉テーマパークを定着させていき、東京でも天然温泉に入れることを広く知らしめた。
ちなみに、この3つのスパはいずれも1000メートル以上掘削して湧出した温泉で、200~300メートルも掘れば出てくる「黒湯」とは違って、琥珀色の湯。塩分濃度が高いのが特徴で、入浴中に肌に塩分が残り、これが膜となって保温保湿効果をもたらす。寒い時期に、冷え性の人などにはいつもおすすめするお湯で、温まり方が半端ない。