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強まる保守派と進歩派の間でのイデオロギー的分断

 加えて現在の韓国では、問題を更に深刻にさせる状況が生まれている。2013年に成立した朴槿恵政権以降、アメリカ等と同じく、韓国でも保守派と進歩派の間でのイデオロギー的分断が強まっている。両者は共に30%程度の固定的支持層を有しており、その対立は国内外の様々な問題において次第に顕著なものとなっている。

 このような状況は、韓国の与野党をして、激しい政治的対立へと駆り立てる。何故なら中道層が先細り、世論が流動性を失う状況においては、左右の間で融和的な姿勢を取っても、それにより政治家や政党が追加的な支持を得ることは難しく、逆に本来の支持層から姿勢の曖昧さを批判される可能性が大きくなるからである。相手側の政策の何かしらを支持することは、自陣営への裏切りであり、利敵行為だと見做される。

 そしてこのような状況においては「相手を激しく批判する」ことこそが、自らの党派色を証明する最も有効な手段の一つになる。結果、保守派と進歩派、そしてそれを代表する与野党が、互いの政策を一律に批判し攻撃する状況が生まれることになる。

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ソウルの大統領府近くで、「対日屈辱外交」と尹錫悦政権を非難する韓国の市民団体 ©️時事通信社

 だからこそ、政府への対決色を強める野党は、尹錫悦政権の政策に対しあまねく異議を唱え、その余波が日韓関係に対しても及ぶことになる。「共に民主党」代表であり、先の大統領選挙において尹錫悦と激しく争った李在明は、尹錫悦政権の対日政策を「日本との関係改善の為なら何もかも犠牲にする」ものとして一律に批判し、党内では現政権を「新しい朝鮮総督府」「親日政府」という揶揄すら用いられるに至っている。

 そしてそのことは言い換えるなら、今日の韓国における日韓関係を巡る議論が、「日本を巡る議論」それ自体としてよりも、韓国国内の党派対立の延長線上に行われていることを意味している。

国内政治の延長線上にある、対日政策に関わる動き

 そもそも尹錫悦政権が対日関係の改善を進めている理由の一つも、それが前政権に対する明確なアンチテーゼとなることにある、と言われている。つまり、進歩派の文在寅の外交的失敗の顕著な事例が日韓関係であるからこそ、保守派の尹錫悦はこれを解決することにより、進歩派との「違い」を見せつけることが出来る、という訳である。

 重要なのは韓国の人々の対日政策に関わる動きが、日本との関係の重要性により動いているのではなく、彼等の国内政治の延長線上で動いていることである。そしてこのような尹錫悦政権下の「日韓関係改善のメカニズム」は逆に、仮に4年後の大統領選挙において現在の野党が勝利すれば、現政権下の合意や約束は当然のように反故にされるであろうことを意味している。

 重要なのは、このような隣国の「我々とは異なる社会の在り方」を前提として、我々が関係の在り方を考えていかなければならない、ということだ。だとすると、現在の韓国の動きに一喜一憂することは余り意味がない。冷静に見守る必要がありそうだ。