将来に対する不安を生む、韓国の「司法積極主義」
日本政府が有する第二の不信感は、将来に対するものである。1992年の慰安婦問題における韓国政府の決定や2015年の慰安婦合意、そして、2018年の元徴用工問題に関する韓国最高裁の判決等、韓国では歴史認識問題に関わる条約や合意の解釈が幾度も変更されてきた。この韓国における法律解釈の不安定さが、日韓間の歴史認識問題の解決への最大の阻害要因の一つとなって来たことは既によく知られている通りである。
指摘されるように、このような法律に関わる解釈の不安定さが、この国が植民地支配からの独立や権威主義体制からの民主化等、幾度もの大きな政治的変革を経験したことによる歴史的産物であり、だからこそ、単に日韓関係に関わる問題のみに留まらない韓国の司法文化の顕著な特徴の一つとなっている。
即ち、法律に対する解釈は安定していることが望ましく、司法は先立つ判例に従って決定を下すべきであるという「司法消極主義」に立つ我が国とは異なり、韓国では、司法は時代の変化と民衆の求めに合致するように、積極的に法律の解釈を変えていくべきであるとする「司法積極主義」に立っている。政治家の汚職や、経済や金融に関わる問題でも、裁判所は頻繁に過去の判決を覆し、それこそが「司法の民主化」に不可欠であると考えられている。
政権交代により「最終的な解決」が永遠に得られない
法令の解釈は積極的に変更されることが望ましい、とする理解は政府にも及んでおり、だからこそ政権交代が行われる度に、政府の各所でこれまでの決定や慣行が覆されることになる。
時代状況や民衆の意志に応じた積極的な法解釈の変更は、この国のダイナミズムを支えるものであると同時に、社会の不安定さの大きな要因ともなっている。当然のことながら、このような韓国の法文化は、歴史認識問題を巡って「最終的な解決」を導きたい日本政府にとっては大きな阻害要因となって現れる。
現在の尹錫悦政権がどれだけ真剣に両国間の問題解決に取り組み、現時点での原告や世論の統制に成功しても、その決定が後に簡単に覆されるのであれば、「最終的な解決」は永遠に得られることがないからである。岸田首相は、慰安婦合意時に日本側外相として、韓国側外交部長官であった尹炳世と合意を取り交わした当事者でもあり、日本側が尹錫悦政権の積極姿勢に応じ切れないのはある意味当然である。