2018年から19年、日韓関係は荒れに荒れた。日本国内では、多くのメディアが日韓関係を巡る問題を取り上げ、毎日のように喧ましく議論した。インターネット上では大統領である文在寅とその政権が、巨大な陰謀を有する諸悪の根源であるかのように議論され、一部メディアでは根拠不明な面白おかしい報道が繰り返された。
しかし、それから数年を経た今日、我が国における日韓関係を巡る状況はまったく異なるものとなっている。新聞やテレビにおける日韓関係に関わる報道量は半分近くにまで減少し、人々の関心も大きく低下した。日韓関係に関わるメディアへの出演を生業とする人々の中には、「最近仕事が少なくて困る」とこぼす人すら現れるようになっている。
尹錫悦政権による「韓国政府の実行力」への不信感
だがそれは現在の日韓関係に動きがないことを意味しない。2022年5月に韓国大統領に就任した尹錫悦は、選挙戦当時から日韓関係改善を主張した人物である。政権成立後は、最大の障害と目される元徴用工問題に関わる解決策を提示、日本側に対して繰り返し協力を呼びかけた。2023年に入ってからは、この解決策に基づく韓国側原告らへの説明会も開催している。元徴用工問題をはじめとする歴史認識問題を、「司法の問題だ」として何らの問題解決策をも講じようとしなかった文在寅政権との違いは明確である。
しかし、そのような尹錫悦政権の努力に日本側もまた積極的に応えようとしているか、といえばそうではない。背景にあるのは、韓国への強い不信感である。
第一の不信感は、韓国政府の実行力への不信感である。例えば、明らかになっている元徴用工問題での解決案では、民間企業が出資した資金をもとに、韓国政府傘下の財団が、これまでの韓国での裁判で確定した歴史認識問題に関わる日本企業等の債務を、肩代わりして支払いを行う、とされている。
当然のことながらここで鍵になるのは、債権を持つ原告達がこの案に応じるか否か、である。この問題に対し韓国政府は、原告の許諾が得られなくても、財団が一方的に債務を肩代わりすることは可能だ、という法的解釈を下したとされているが、韓国内でもこの政府解釈の妥当性については大きな疑念が向けられている。仮に韓国政府が原告の意志を無視して、債務肩代わりを強行した場合、今度は原告が、日本企業等に対する自らの債権が有効であることの確認を求める訴訟を起こす可能性も大きい。裁判となれば、判決がどちらに転ぶかはわからず、日韓関係は再び、韓国司法の動きに一喜一憂する展開へと戻ることになる。