――スムーズにいかない撮影もありましたか。
吉田 お店には事前に取材許可をもらっていますが、店先に「今夜、吉田類来たる」って貼り紙があったときは、慌てて剥がしてもらいました。そのお店のいつもの雰囲気ではなくなってしまいますから。
取材されることを知らなかった常連客に、あとから「どうして教えてくれなかった!」ってお店が文句を言われちゃうこともあるらしいです。そこで常連さんには、前もってしゃべらざるを得なくなってきたみたいですね。
撮影のときはお顔が映ってもいいと言っていたカップルから連絡があって、放送時にはボカシを入れた回もありました。よくわからないけど、何かあったんでしょう(笑)。いまは、そんなことはないですね。
撮影では1軒につき2時間飲みっぱなし
――撮影は、どんなふうにやっているんですか。
吉田 酒場へ行く前に紹介する立ち寄り場所も、当初はロケの途中で歩きながら見つけて、その場でパッと撮っていました。いまは完全に、ディレクター任せです。酒場を探しに行った際に、周りを歩いて調べているらしいです。誰も知らないような不思議な業種の店を見つけ出すのが、得意なディレクターがいるんですよ。それがまた、面白くてね。
酒場は、1軒につき2時間かけて撮ります。放送で使われるのはほんの一部ですが、僕は2時間飲みっぱなしです。
――コロナ以前は1日に2回分、撮影していたそうですね。
吉田 立ち寄り2か所のほか、酒場が2軒ですから、4時間飲みっぱなしです。立ち飲みに寄ったりして3軒という日もありました。2軒目でもうへべれけになって、3軒目にはふらついて入って行ったこともありましたね。
――お酒やおつまみの注文は、その場で決めているんですか。
吉田 主に、お店のお勧めをいただくようにしてます。好き嫌いはあまりないので、美味しいものなら何でも食べますよ。
――最後に流れる俳句は、取材後にお作りになるんですか。
吉田 その場で考える場合もありますけど、推敲も必要なので、後日、資料を送ってもらってからですね。だいたい、酔っぱらっていて何も覚えてないときってあるわけですよ。それで一句って言われても、出てきません。
すごく酔っ払ってるときは、取材したお店の屋号すら忘れています。エンディングのコメントで後ろを振り返るのは、のれんを見て屋号を探してるんです(笑)。そういう回は、それだけ楽しいお店だったってことです。
――2020年の春から新型コロナウイルスが流行して、酒場は閉まってしまい、以前のような撮影ができなくなりました。番組存続の危機だったのではないですか。
吉田 あの困難な時期を乗り越えたおかげで、20周年を迎えられたと思っています。
写真=石川啓次/文藝春秋
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