そう話す中溝社長だが、元受刑者を採用する方法が簡単にうまくいったわけではない。仮釈放中から働いていた元受刑者が自販機荒らしで逮捕される、仮釈が終わるや否や、ある日急に出勤せず姿をくらませるなどのトラブルは日常茶飯事だという。
「人を救いたいとは言っても、辛いことが“99”という感じです。でもね、滅多にない“1”が嬉しくて、そのために頑張っているのかもしれません。『働く』ということをうちで覚えたら、最後まで奉公してほしいとは全然思っていません。服役中は履歴書が空白になるので、うちの名前を書いてもらって再就職できたらいいことやないですか」
仮釈放中に交際女性との同棲を目論んだ社員を一喝
記事冒頭で中溝社長が怒鳴りつけていた相手の男性社員も元暴力団員だ。中溝社長が強い口調で説教したのは、仮釈放中に「交際相手の女性が妊娠したので同棲したい」と相談を受けたからだった。
「仮釈中ということを甘く考えて、同棲したいと言ってきたことに、なめているのかと怒ったんです。仮釈放中は、犯罪はもちろんですが、変な場所に出入りするなど非行に結びつく行動も、取り消しに繋がる可能性があります。同棲ですぐに取り消されるかは不明ですが、身元引受人で同居していた母親の元を離れると簡単に言うこと自体、彼は自分が仮釈中だということを軽んじていたんです。本人は真面目に仕事もしているんだからもう大丈夫だと浅はかに考えていたようですがね。でも結局は私の思いを受け止めてくれ、同棲を仮釈が消えるまで我慢しました。そして、無事に子供が生まれて、先日連れてきてくれたんです」
ここまで話すと、中溝社長はサングラスを外して涙を拭った。
「奥さんも幸せそうで、本当に何もできなかった男が立派になって、家庭を築いて生活しはじめている。生活が充実していれば再犯に手を出す確率だって下がる。たまにあるこういう嬉しいことが、何物にも替えられないんですよ。僕はね、『跳ね返り』を信じているんです。こっちが何かしてあげたら、それがいい形で跳ね返ってくることがある。こっちが何もしなければ、向こうだって何もしてくれませんから」
社員のプライベートに介入する会社は、現代社会では敬遠されることも多い。しかし、懲役を繰り返していた複数の人が、中溝観光開発で社会復帰できたのも事実だ。社員たちは、この風変わりな会社と社長のことをどう見ているのだろうか。