「おつかれさまでーす!!」
九州随一の歓楽街・中洲。戦後に赤線として栄えた南新地を歩くと、立ち並ぶソープランドの黒服を来たスタッフたちが中溝観光開発の中溝茂寿社長(57)に頭を下げて挨拶する。
中溝観光開発は、南新地に所有する複数のビルをテナントに貸し出し、清掃など管理を行う会社だ。特徴は、社員の半数を元受刑者や元ヤミ金従業員、不良少女などが占め、社長自身も何度も覚醒剤の使用などで実刑判決を受け、20年以上、刑務所の中で過ごしていた経歴を持つ。
中溝観光開発で「社長秘書」として働く藤沢圭介さん(仮名、20代)も、元“半グレ”だった。風貌はよくいる普通の若者で、物腰も柔らかいが、振り込め詐欺や大麻の売買で実刑判決を受けた経験がある。中溝社長と出会ったのは2020年の11月、更生保護施設にいた時だったという。
「少し前に仮釈放にはなったんですが、親に身元引受人を拒否されて更生保護施設に入っていました。あと2カ月くらい我慢すれば仮釈がなくなる予定だったので、その間だけ真面目にやり過ごしたら、また色々やってやろうと考えてました。中溝社長に『身元引受人になるからうちで働かないか』と言われた時も、早く施設から出たかったし、どうせ短い期間で辞めるなら仕事なんて何でもいいやと思ってました」
「昔の友達に会うだけで社長に怒られるのはイライラしました」
出会いからほどなくして、中溝観光開発で働きはじめた藤沢さんだったが、仕事の内容や中溝社長の態度は予想とは全く違うものだったという。
「仕事なんてどうせつまらないと思っていましたが、やってみるとこれが意外に楽しいんですよ。同じような刑務所を経験した仲間がいるのも助かったし。ただ、昔の友達に会うだけで社長に怒られるのはイライラしました。縛られるのが耐えられなくて、一度辞めたこともあります。仕事の時間は真面目にやってたし、別に会ってすぐ詐欺をするわけじゃないし、それの何が悪いんだと思っていたんですよね」