中溝観光開発の中溝茂寿社長は取材中に2度、涙を流した。
元暴力団員の男性社員が子供を連れてきたときを振り返ったうれし涙と、10代の女性社員、吉村愛華さん(仮名)が過去に受けていた虐待の話をしたときの涙だ。激情型の中溝社長はABCテレビが密着したドキュメンタリーでも人気となり、YouTubeで公開されている吉村さん登場回の動画は300万回に迫る再生数だ。
中溝社長のもとには、全国各地の人から「うちの子の面倒を見てほしい」「人生を変えたい」と元受刑者やその家族らから連絡が相次ぐようになった。
「『YouTubeを見た』と言って電話はもちろん、遠方から会社に突然、直接来る人もいて驚きますよ(笑)。最近ではある依存症の患者や家庭内暴力をしている男性と会いました。
連絡をくれる人の中には、真剣に更生したい人もいれば、俺を身元引受人にして早く更生施設を出ようっていうだけの人もいる。本当に変わる気があるのか、その場しのぎなのか、人を見て見極める力もついてきました(笑)」(中溝社長)
「社内でも、殺人犯に内定を出すことについては意見がある人も…」
元ヤクザ、半グレ、元受刑者、非行少女、ヤミ金……。さまざまな“バツ”がついた社員ひとりひとりに寄り添い、その更生を支援する中溝社長。支援対象は拡大しつづけ、ついに最近は服役中の殺人犯に“内定”を出したという。
中溝観光開発への入社が決まっている岸田翔太受刑者(仮名、25歳)が事件を起こしたのは8年ほど前。岸田受刑者は、交際相手の女性の首をはさみで刺して死亡させた。懲役7~12年の不定期刑を受け、現在は佐賀少年刑務所で服役中だ。
「社内でも、殺人犯に内定を出すことについてはちょっと意見がある人間もおるかも知れません。でも僕が思うのは、殺人と一口に言っても、カネ目当てで殺したのと、殺意がなかったけど当たり所が悪くて死なせてしまったのではまったく違います。
岸田受刑者の状況を詳しく聞いてみると、女性と口げんかになってカッターナイフで切りつけられ、反撃する形でたまたま持っていたはさみを突き刺して死亡させてしまったということでした。もちろん許されることではありませんが、誰にでも起こりうる“殺人”とも言えるんです。単に殺人だから『一発でアウト』という考え方を僕はしません」