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《14年ぶりの社長交代》特別公開・トヨタ豊田章男社長がすべての疑問に答える!

独占インタビュー

source : 文藝春秋 2022年1月号

genre : ビジネス, 企業, 社会, 政治

note

「お金をつくる」会社になっていた

 ――公聴会では「事業の成長スピードが速すぎて、人材育成が追いつかなかった」と釈明されていましたが、豊田社長は一連のリコール問題から、どのような教訓を得ましたか。

 豊田 当時の会社は資本の論理に傾きすぎていたと思います。急激な成長を追い求めるあまり、軋みが生じていた。元々トヨタは「ものづくり」から始まった会社ですが、資本主義の論理が社内に流れ込んだことで、「お金をつくる」会社に変貌してしまったのです。

 分かりやすい例が、2002年からトヨタで導入された、商品展開や販売・生産計画の指針を示すための基本戦略「グローバルマスタープラン」です(2009年1月に廃止)。向こう5年の経営計画を世界規模で示すものですが、どんな車を優先的に生産していくか、どこに優先的に工場をつくるかは、生産台数と収益によって決定されました。残念ながら各国の消費者の目線は全く入っていなかったのです。こうして拡大偏重主義に陥った結果、トヨタは様々な車種を扱うフルラインメーカーであるにもかかわらず、収益を上げる、売れる車だけに特化していった。一方、トヨタの「ファン・トゥ・ドライブ」を体現する車は、どんどん見放されていきました。

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 ――拡大路線から転換を図るべく、どういった改革を進めたのですか。

 豊田 社長に就任してから、「もっといいクルマをつくろうよ」と社員にずっと言い続けてきました。当初は社内外から「この社長は数字を語れないのか」「もっといいクルマって何なんだ?」「何を言っているのか、よく分からない」と様々な批判を浴びましたが、今でもこの考えは変わりません。要するに、何よりもまず商品ありきという考え方です。

 商品において鍵を握るのは、ロングセラーモデルです。実はロングセラーを作り出すには、商品をどんどん変化させる必要がある。たとえば1966年に誕生した初代カローラは2ドアのセダン型のみでした。それが年代を追うごとにツーボックス系、ハッチバックなどが追加され、今やカローラだけで、セダン、SUV、スポーツモデルなど、多様なラインナップを擁しています。このように自ら変化を繰り返すことでお客様に長く愛され、生き残っていけるのです。

 私の就任時を振り返ると、収益を上げる車は4年に1回はモデルチェンジがなされる一方、ほとんどモデルチェンジされないままの車もあった。私が社長になってから、かなりテコ入れしました。

トヨタらしさを取り戻す闘い

 ――豊田社長の公聴会での率直な言葉は、多くの社員の心を動かしたといいます。会社の危機的状況においては、社員たちを奮い立たせるようなリーダーの言葉が必要とされますよね。

 豊田 自分の意見を押しつけるだけの「理屈経営」をやっていては、社員たちは動いてくれません。私が目指しているのは「共感・感動経営」です。

 意思決定においていちばん大事にしているのは、様々な人の意見を聞くこと。私は創業ファミリーの人間なので、正直言って、一般のサラリーマンの感覚は分かりません。それに文系学部の出身なので、自動車の専門家でもありません。唯一分かるのは車の乗り味だけ。そんな人間です。だからこそ、あらゆる人間に意見を聞いた上で経営の判断を固めていく。その判断をストーリーにして社内で説明し、実行にうつす。私が12年間かけてやってきたのは、このプロセスの繰り返しです。

 社員には「対立軸をつくるな」とよく言っていますし、私自身も、議論で論破しないように心掛けています。私の言葉は単純明快でしょう。だから自己主張の強い人間に思われがちですが、決してそんなことはありません。

 ――論破された側はなんとなく面白くないですよね。後々までしこりが残ってしまう。

 豊田 同感ですね。でも、ある時、次のような指摘を受けたことがありました。「章男社長は対立軸を作るなと言う一方で、闘うという言葉を良く使いますが、一体誰と闘っているのか」と。言われてみれば、確かに私のインタビューや挨拶文には「闘う」という言葉が多い。どうしてなんだろうと、よくよく考えてみたのですが、私にとっての闘いは、「トヨタらしさを取り戻す闘い」なのではないかと。

 というのも、社長になってから、「トヨタさんって、昔はこんなことしませんでしたよね?」と、昔馴染みの方からご意見をいただくようになりました。皆さん、はっきりと言い表せないものの、どこか違和感があったのだと思います。

 トヨタらしさとは何か。いまだに私の中ではっきりとした答えは導き出せていません。トヨタの社長として「ものづくり」の原点に立ち返り、商品で経営をしていく中で、その思想を作り上げている段階だと思います。

トヨタ自動車の豊田章男社長が、12年にわたる社長人生を振り返り、2010年の米公聴会や創業者である喜一郎氏への思いに加え、メディアへの不信、日本製鉄との訴訟、EV導入への思い、後継者問題などについて率直に語っている全23ページの独占インタビュー「トヨタ豊田章男社長 すべての疑問に答える!」は、月刊「文藝春秋」2022年1月号および、「文藝春秋 電子版」に掲載しています。

文藝春秋

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トヨタ豊田章男社長 すべての疑問に答える!
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