嵐ファンへ伝播した二宮結婚への怒り
そしてこの怒りは伝播していきました。まずは“二宮以外の嵐ファン”です。
ジャニーズファンには「担当制」という独特の制度があります。ジャニーズにおける“担当”とは、「一番好きなアイドル」といった意味合いで使われます。ニノが好きなファンは自分のことを「二宮担当」「ニノ担」などと自称します。そしてジャニーズファンにはこの担当制を通して、ジャニーズタレントへの愛を深めているという側面があります。
ファンは担当に対して恋愛に近い感情を抱いているので、彼との距離をなんとか縮めたいと思っています。ファンがコンサートでアイドルを「観る」ことを「会う」と表現するのも、その欲求の表れでしょう。しかし相手はアイドルですから、その欲求が満たされることはありません。だからコアなファンは「メンバー同士の関係性をファン同士で疑似的につくる」という行動に出ます。たとえばニノ担なら、松潤担や大野担ら、ニノ以外の嵐メンバーを愛するファンと“身内”と呼ばれるグループを作るのです。
身内はことあるごとに会い、絆を深めていきます。DAM(カラオケの機種。ジャニーズ本人が登場するPVが流れる)が入っているカラオケ店で「ジャニカラ(ジャニーズの曲を歌うカラオケ)」をしてそれぞれの担当のパートを歌ったり、コンサートには必ず一緒に参加して「反省会(コンサート帰りに行うファン同士の飲み会)」で興奮を共有したりする。そうすると、ファンの間にはかたい“女の友情”が生まれます。それはアイドル同士がグループ内で育んでいる友情にも似た関係で、嵐だと櫻井担はしっかり者の調整役を演じ、相葉担はムードメーカーになっていくこともあります。
このアイドルグループと身内の関係は、「トーテミスム」という人類学の言葉で説明することができそうです。
未開社会にもある、アイドルグループと身内の関係性
そもそもトーテミスムとは人間集団が特定の動物や植物などと自分たちがつながっているとする信仰の一形態で、いわゆる「未開社会」では動物や植物からとった名前を付けた氏族などの人間集団がよく見られます。呪術や宗教の原始的な形態だとも言われています。
たとえば、ひとまず“ネコ族”がいるとしましょう。ネコ族はネコにとても親密なつながりを感じていて、殺したり食べたりすることはしません。そしてネコ族は、ネコと仲のいいイヌに親密なつながりを感じている“イヌ族”と仲良くなることがあるんです。このネコやイヌをトーテムといいます。そしてネコとイヌ、ネコ族とイヌ族全体の関係をトーテミスムと呼びます。
嵐メンバーをトーテムだとすると、嵐メンバー同士の仲睦まじい関係に呼応するように、“身内”の女の友情が育まれている関係性が浮かび上がってきます。ジャニーズファンは身内でアイドルグループ内の人間関係を繰り返し模していくことで、実際には決して近づくことのできないアイドル(トーテム)への心理的距離を縮めていこうとしているんです。実際、ファンのなかには担当と自分の同一視が進んだ結果、身内や他のファンに対して、担当のことを「うち」や「うちの子」と呼ぶ強者もいます。