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「ほとんど男子校」だった東京大学で、「女子」としての役割を求められた“生涯最悪の瞬間”

2023/02/06

genre : ライフ, 社会

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 常に正しく振る舞えているわけはないだろうし、取りこぼしてしまっている部分はたくさんあるだろう。正直、自分が苦しんできたくせに美やかわいさが正義というルッキズムの価値観に縛られている自覚はある。それでも、いわゆる名誉男性として彼らの仲間に加わることはなく、傷つく側としてこの人生をやってきたと言える。それは不幸だけれど、とてもしあわせなことだと思う。大学にいた頃はたしかに、“東大男子”になりたいという気持ちはあった。ゲロを踏んだり道端の石ころ扱いされたりするよりは、どんちゃん騒いで酔っ払って嘔吐して爆笑している側でいるほうが自由だと思っていた。馬鹿にしていたけど、羨ましくもあった。

 でも、今はそうではない。無知なまま、たとえ時代の流れにより何かを知っても、多大な努力を払わない限りは本当には理解できず年をとっていくであろう彼のような人のことを考えると、気の毒にすら思う。

「っていうかどうしてあの人と付き合ってたの?」

 その後彼は、学部生の頃から付き合っていた法学部の彼女を、司法試験合格の翌日に振ったと聞いた。彼は、さらに自分に見合ったアリを手に入れるために取捨選択をしたのだろうか。彼には卒業後一度も会っていないが、実はわたしはその彼女とは、やはり別のゼミでいっしょになったのをきっかけに友達になり、卒業後もTwitterでほそぼそと交流をしている。先日、8年越しにお茶をした際に、「っていうかどうしてあの人と付き合ってたの?」と聞いたら「いや、それがわたしもわからなくて……。気の迷いかな?」と本当になんでもないという口調で言われて、ちょっと笑ってしまった。

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 余談だが、吐瀉物は大学卒業の夜にも降り注いだ。オフィシャルな式典と学部の卒業パーティーのあとにキャンパスそばの白木屋でクラスでの二次会があった。これで最後だろうし……と、クラス飲み会不参加の誓いを破って参加したら、恋愛事情を根掘り葉掘り聞かれ「え~本当はあいつと付き合ってんじゃないの~?」とゼミで仲がよかった男友達との関係を囃し立てられる事件が発生したのだ。

 1年のときと違い、そのときのわたしは飲み会を退出する判断をした。そうしてその足で東京メトロ丸ノ内線、副都心線直通みなとみらい線を乗りつぎ、横浜へと向かった。その日は高校時代の友人の大学も卒業式で、彼女が、Facebookに「今日横浜ベイホテル東急の部屋とってるから、来れる人教えてください~」と自主開催の卒業パーティーの告知をしていた。飲み会中にそれを見かけたわたしはすかさず、「わたしも行っていい?」とメッセしたのだった。「いいけど……うちの大学の人想定してた(笑)。大丈夫?」と若干引かれたものの、大丈夫、大丈夫と言い張って参加した。大学時代楽しかったことベストテンには入る思い出だ。インターネットのか細い糸があったおかげで、わたしは「女」のラベルに窒息することなく、社会人になることができたのだった。

それでも女をやっていく

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2023年2月6日 発売

「ほとんど男子校」だった東京大学で、「女子」としての役割を求められた“生涯最悪の瞬間”

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