91歳老女への凶行
家人の女性(当時91歳)は最初、「また今度にしてくれ」と拒んだ。あと10分ほどしたら通院のためにヘルパーが家にやって来るためだった。ところが、桶谷から「すぐに終わるから」と強く言われ、不審に思った。点検の道具や書類などを持っていなかったからだ。だが2人が「近所の家も点検している」などと言って近隣住民の実在する名前を挙げたため、怪しみながらも家に入れてしまった。
「外気を遮断する必要がある」
2人の男たちは口々に言い突然、家中の窓を閉めて回った。若い男が家人の高齢女性に急接近してきた。眼鏡の若い男だ。男は女性を一気に押さえ付けた。高齢女性は、そのときになってようやく気付いた。ニュースでやっていた強盗だ。そう思った時にはすぐ後ろにもう1人の男が立っていた。後ろ手に縛られ、廊下にへたり込んだ。
女性は足に人工関節を入れているため、床に座り込むと自力で立つことは難しく、逃げることもままならない。男らが家中の戸締まりを確認して回っていたのは、そのためか。
叫んでも、外まで声は届かない。
男は言った。
「キャッシュカードの暗証番号を教えろ」。女性が拒むと、男は怒りもあらわに「家に火を付けるぞ!」と脅してきた。それでも答えないと、男は台所から包丁を持ち出してきて突き付けた。「アンバン(暗証番号)教えろ!」
女性は叫んだ。
「殺すなら、殺せ!」
そのとき家のインターホンが鳴った。電話も鳴った。予定通り訪問してきたヘルパーが家の異変に気付いたのだ。
2人の男は「庭から出られる!」などと口々に言い、走り去った。
2人は互いのことを気にすることもできないほど焦り、アカサカとテラサキから指示されるがまま、西へ向かって走り続けた。鶴見川を渡ってすぐのコンビニで、2人は合流した。
この時、木暮の手元には女性宅から奪った現金2万4000円とキャッシュカード2枚、クレジットカード3枚があった。新たな指示が木暮に告げられた。
「奪ってきたものをスマホで撮って送れ」
木暮は奪った現金やカード類をコンビニ駐車場の地面に広げてスマホで撮影した。すぐに返信が来た。奪った現金を使ってコンビニで「iTunes(アイチューンズ)カード」を購入しろという指示だった。