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証拠残さぬ悪知恵

 iTunesカードは、額面1500円から1万円の4種類があり、購入者はカードの裏面にプリントされたコードをスマホのカメラで読み込むか、直接スマホなどの端末に入力すると、額面の金額がアップルの個人IDに追加され、その金額分のアプリやコンテンツを購入することができる、いわばネット上で使えるプリペイドカードだ。

 指示役の男らは、このコード自体に金銭的価値があることに目を付け、奪った現金でカードを購入させ、コードをスマホで撮って送らせていた。

 別の特殊詐欺グループの男によると、直接現金の受け渡しをする必要がないので逮捕されるリスクが回避できる上、証拠も残りにくく、コードそれ自体が転売の対象となっているのだという。さらにコンビニで購入できるという利便性もあって、犯罪で得た利益を授受する際の手段に使われているという。特殊詐欺の報酬をiTunesカードのコードで支払うグループもあるという。

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 木暮は購入したiTunesカードの番号を指示役に送信した。テラサキからは直後に「もう1件(強盗を)やってもらう」と指示されたが、周辺に人が多いことなどを言い訳に難色を示していると、「今日はもういい」と返事が来た。

愛妻「ちゃんと寝ているの?」

 桶谷はこの日、妻子が待つ名古屋市へ戻る許可をアカサカから得ていた。

 深夜、東名高速をひた走った。日付が変わった9月12日午前0時過ぎ。自宅近くに戻ってきたものの、桶谷の足は重たかった。家からほど近いコンビニの駐車場に車を止め、苦悶した。

「妻に全てを打ち明けようか……」

 家の玄関を開けたときには午前6時になっていた。高校生のころから交際を始め、やがて結婚した3歳年下の妻。そして、1歳9カ月の息子の顔を見た途端、桶谷は自分が置かれている差し迫った現実を言えなくなってしまった。

 現金の「運び」の仕事をしていると噓をつき、この仕事をしないと自分の身が危険だと噓を重ねた。

 妻は落涙し言った。 

「ばかだね」

 そして続けた。

「ちゃんと寝ているの?」

 窃盗事件の報酬として受け取った4万6000円のうち、宿泊費や高速道路代などを払って残ったなけなしの2万円を妻に手渡した。

購入したばかりの車が消える

 アカサカから、12日には神奈川県内へ戻るよう言われていた桶谷は、指示通り昼過ぎに名古屋市の自宅を出て、再び東名高速を疾走した。

 そしてまた指示があった。東京都墨田区の民家の住所が送られてきた。 

「明日のタタキの家だ。入れ」

 2020年9月13日。桶谷は同区の民家近くへ向かった。 

 アカサカが言う。

「近くのコンビニに車を置いていけ。鍵はタイヤの上に置いておけ」

 1年ほど前に残価設定ローンで購入したばかりのホンダの黒のミニバンをコンビニ駐車場に置き、指示された民家へ徒歩で向かった。しかし、家の前の人通りが絶えないことなどを言い訳に「やめた方がいい」と伝え、コンビニに戻った。

 車が忽然と消えていた。