ツイッターでタタキか詐欺ができる人を10人募集
テラサキから連絡が入った。
「お前の車は預かった。もうお前を逃がすわけにはいかない」
返してほしいと懇願したが、「ダメだ」とにべもなかった。都内のホテルに入るよう指示され、仕方なく徒歩と電車で移動した。
翌14日。車を返してほしいと再度願い出ると、テラサキから条件が出された。
「ツイッターでタタキか、詐欺ができるやつを募集しろ。10人集めたら車を返してやる」
桶谷のスマホに、ツイッターに書き込む文案が何パターンも送られてきた。桶谷は指示通りに投稿した。すると、すぐに数人から反応があった。
桶谷は思った。この人たちをテラサキに紹介したら、新たに強盗の犯人が生み出され、被害に遭って傷付く人が出てしまう。そんなことをしていいはずがない。結局、テラサキに伝えることはしなかった。
操り人形
アカサカとテラサキからの連絡は24時間、昼も夜もなく入り続ける。車の返却話はうやむやにされ、この日は受け子をやるよう指示された。指定された家に向かったが、桶谷は「家が見付からない」と言い訳をして逃げた。アカサカは激怒した。
「いいかげんにしろ! 家族を殺すぞ!」
9月15日から16日にかけて、桶谷は特殊詐欺で騙し取られたキャッシュカードから自分の銀行口座に振り込まれた金を小分けにして引き出していった。
このうちの2万円でiTunesカードを購入し、コードをアカサカに伝えた。4万円は桶谷が報酬として受け取った。16日に日付が変わるやいなやさらに50万円を下ろし、計92万4000円の現金を手にしていた。
アカサカからの指示は絶え間なく続いた。
「京急線の青物横丁駅近くにあるコンビニの前に行け」
回収役の男がコンビニの前に立っていた。桶谷は現金を手渡した。
16日は千葉県内の指定されたロッカーへ行った。奪われたミニバンの中に置いていた桶谷の私物やカード類がロッカーの中にあった。深夜になって、桶谷の口座にまた100万円が振り込まれた。引き出せ、と指示を受けた。もはや操り人形のように詐欺を続ける桶谷。通話状態を維持し、マイク付きのイヤホンで状況を報告し続けなければならず、桶谷は心身共に疲弊していた。
「深夜も日中も関係なくずっと指示が入ってくるんです。通話もメールも。反応しないと再三電話が鳴る。そして脅される。ほとんど寝ていない状態で、食事ものどを通らなかった。食べても吐いてしまっていました」。指示に抗おうとすると、「家族を殺すぞ」とまた脅された。
17日午前0時ごろ、テラサキから連絡があった。
「明日、タタキだから。逃げるんじゃねえぞ」
桶谷は9月17日、最後の犯行「川崎事件」を引き起こす。
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