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「スーパー戦隊VS.敵という境界線は引いていない」“異色戦隊物”に見る現代社会の“グレーな部分”《大人がハマった『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』》

プロデューサー・白倉伸一郎氏インタビュー#2

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対立構造をあえてはっきりさせない

──もうひとつ気になったのが、スーパー戦隊シリーズの柱である「ヒーローVS敵」という善悪構造の描き方です。

『ドンブラザーズ』では話の中盤以降、ドンブラザーズのメンバーが、敵勢力だったはずの脳人とずいぶん仲良くなっていますね。

第46話ではドンブラザーズ(左側5人)と脳人(右側3人)が集合 Ⓒテレビ朝日・東映AG・東映

白倉P 脳人の世界は、人間の波動で成り立っている設定です。脳人は人間を家畜のように管理する立場である一方、人間がいないと生きていけない存在でもあります。

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 だから、脳人は人間を嫌ったり憎んでいるわけではありません。人間に対する“執着”が強いんです。

脳人はどんどん人間臭くなっていく

──では、最初から「脳人=人間の敵」という対立構造を描くつもりではなかった?

白倉P そうですね。『ドンブラザーズ』では、「スーパー戦隊VS敵」というくっきりとした境界線を引いていません。

12月になると、脳人たちは「クリスマス週間、戦いは禁止されている」と一時休戦。子供たちに夢を与えるサンタになるべく、ドンブラザーズに協力を仰ぐ Ⓒテレビ朝日・東映AG・東映

 ソノイたち3人は人間界に派遣されますが、人間らしいモノの見方や、人間的思考をだんだん身につけていくんですね。これは、猫を飼っている人がニャンニャン言葉で話すようなもので、脳人たちはある意味、どんどん人間臭くなってきているんです。

「敵が味方に」関係が変わるプロセスを描きたい

──『仮面ライダー』シリーズでは、敵と味方が明確に分かれていない作品も多いと思います。でも、スーパー戦隊シリーズはこれまで、「正義が巨悪を打つ」のがお約束でした。

 ここまで関係性が複雑で、敵が味方になるような作品は珍しいのでは?

決闘するタロウ(左)とソノイ(右)Ⓒテレビ朝日・東映AG・東映

白倉P 「敵が味方になる」という展開は、脚本の井上さんの特徴だと思います。

 くっきりはっきり分かれている関係って、ドラマ的にはあまり面白くないんですよ。我々が暮らしている日常生活でも、「敵/味方」や「上司/部下」など、全ての役割が明確に分かれているわけじゃないでしょう。グレーの部分も多々あると思うんですよ。

──今は多様化の時代で、男性が女性の役割を担ったり、その逆もありますよね。

白倉P 男女関係、恋愛関係は特に複雑ですよね。好きな者同士でも、すれ違いがあったり、くっついたり離れたり。

 だから、普通の人たちの人間関係が変わったり、元に戻ったりするのと同じように、ドラマの中でもさまざまな人たちが絡み合い、ときどき敵になったり、味方にもなっていきます。

敵も味方も一枚岩ではなく、個々で影響し合う

──ドンブラザーズと脳人の関係も、こっちの2人は仲がいいけど、こちらは険悪……という感じで、かなり複雑ですね。

白倉P あまりゴチャゴチャにすると、視聴者の皆さんがついてこれなくなるので、複雑さの加減には気を付けています。『ドンブラザーズ』は1~2週見逃すと、話がわからない……としたくなかったので、そこはゆるやかに「人間と脳人が仲良くなってきたね」という印象になるよう、調整してきました。

──それにしても、相関図を見るとどんどん込み入ってきた気がします。これは、ドラマのスタート時から予定していたことですか。

白倉P 当初からではないですが、第5~6話くらいの時点で、「どこまで風呂敷を広げて、どう畳もうか」を考えたうえで、ここまで進めています。

 方針やキャラ設定は少しずつ変えていますが、ここまでは概ね、規定路線通りに進行しているんですよ。たくさんあった伏線もかなり回収していますし、最終回までには全てが納得できる形に収まる予定です。

「スーパー戦隊VS.敵という境界線は引いていない」“異色戦隊物”に見る現代社会の“グレーな部分”《大人がハマった『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』》

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