対立構造をあえてはっきりさせない
──もうひとつ気になったのが、スーパー戦隊シリーズの柱である「ヒーローVS敵」という善悪構造の描き方です。
『ドンブラザーズ』では話の中盤以降、ドンブラザーズのメンバーが、敵勢力だったはずの脳人とずいぶん仲良くなっていますね。
白倉P 脳人の世界は、人間の波動で成り立っている設定です。脳人は人間を家畜のように管理する立場である一方、人間がいないと生きていけない存在でもあります。
だから、脳人は人間を嫌ったり憎んでいるわけではありません。人間に対する“執着”が強いんです。
脳人はどんどん人間臭くなっていく
──では、最初から「脳人=人間の敵」という対立構造を描くつもりではなかった?
白倉P そうですね。『ドンブラザーズ』では、「スーパー戦隊VS敵」というくっきりとした境界線を引いていません。
ソノイたち3人は人間界に派遣されますが、人間らしいモノの見方や、人間的思考をだんだん身につけていくんですね。これは、猫を飼っている人がニャンニャン言葉で話すようなもので、脳人たちはある意味、どんどん人間臭くなってきているんです。
「敵が味方に」関係が変わるプロセスを描きたい
──『仮面ライダー』シリーズでは、敵と味方が明確に分かれていない作品も多いと思います。でも、スーパー戦隊シリーズはこれまで、「正義が巨悪を打つ」のがお約束でした。
ここまで関係性が複雑で、敵が味方になるような作品は珍しいのでは?
白倉P 「敵が味方になる」という展開は、脚本の井上さんの特徴だと思います。
くっきりはっきり分かれている関係って、ドラマ的にはあまり面白くないんですよ。我々が暮らしている日常生活でも、「敵/味方」や「上司/部下」など、全ての役割が明確に分かれているわけじゃないでしょう。グレーの部分も多々あると思うんですよ。
──今は多様化の時代で、男性が女性の役割を担ったり、その逆もありますよね。
白倉P 男女関係、恋愛関係は特に複雑ですよね。好きな者同士でも、すれ違いがあったり、くっついたり離れたり。
だから、普通の人たちの人間関係が変わったり、元に戻ったりするのと同じように、ドラマの中でもさまざまな人たちが絡み合い、ときどき敵になったり、味方にもなっていきます。
敵も味方も一枚岩ではなく、個々で影響し合う
──ドンブラザーズと脳人の関係も、こっちの2人は仲がいいけど、こちらは険悪……という感じで、かなり複雑ですね。
白倉P あまりゴチャゴチャにすると、視聴者の皆さんがついてこれなくなるので、複雑さの加減には気を付けています。『ドンブラザーズ』は1~2週見逃すと、話がわからない……としたくなかったので、そこはゆるやかに「人間と脳人が仲良くなってきたね」という印象になるよう、調整してきました。
──それにしても、相関図を見るとどんどん込み入ってきた気がします。これは、ドラマのスタート時から予定していたことですか。
白倉P 当初からではないですが、第5~6話くらいの時点で、「どこまで風呂敷を広げて、どう畳もうか」を考えたうえで、ここまで進めています。
方針やキャラ設定は少しずつ変えていますが、ここまでは概ね、規定路線通りに進行しているんですよ。たくさんあった伏線もかなり回収していますし、最終回までには全てが納得できる形に収まる予定です。