愛媛・山口・大分の三県が囲む瀬戸内海西部の海域・伊予灘に、青島という名の有人離島がある。最も近い愛媛県側の沿岸部から約12km離れた沖合に位置し、面積は東京ディズニーシーと同程度という小さな島だ。ここは周囲をイワシの優れた漁場に囲まれており、1626年に人の定住が始まって以後、およそ400年間に亘り、漁村の島として歴史を重ねてきた。この島はまた、少ない人口に比して極端に多くの猫が棲息する、いわゆる「猫島」でもある。
瀬戸内海に浮かぶ幻のような「猫の楽園」
有人島が猫島化する例は世界的によくみられ、日本国内でも宮城県田代島、岡山県真鍋島、福岡県藍島など、多くの猫島が知られている。有人離島で猫が増えやすい要因としては、「島に天敵がいない」、「島では漁業が主な産業であることが多く、魚のあらなどのエサが人間から豊富に貰える」、「同じ理由で鼠も増えやすく、それらを退治するために人間が猫を島に持ち込む」等が挙げられる。
とはいえ、これらは一般論であり、青島がいつどうして猫島となったかについては、信頼性の高い記録がないため、はっきりしたことはわからない。地元の人の話によると、元々ある程度の数の猫はいたが、今ほどまでに増えてきたのは2000年以降ではないかという。
2013年には、世界的な動物写真家の岩合光昭氏がテレビ番組やSNSで青島に棲む猫を紹介したことをきっかけに、当地は「猫の楽園」として一躍有名になり、日本のみならず海外からも観光客が訪れる場所に変貌した。
だが、この猫と人が穏やかに暮らす箱庭のような島は現在、まるでポストアポカリプス(文明崩壊後)の世界を舞台にしたSFのように、静かな終わりへと向かっているのだ。今回紹介するのは、そうした青島の来し方、行く末を物語る廃墟である。