だが、答え合わせは思いのほか早かった。青島の過疎化は更に加速し、人手不足のため船団規模での網漁業が不可能となり、1967年には、江戸時代から330年続いた青島のイワシ網漁業が終焉を迎えた。
1966年には青島中学校は新築から僅か8年で本土の長浜中学校に統合され、事実上廃校となる。そして1975年には青島の総人口は124人、前年の小学校児童数は2学級6人にまで減少し、青島小学校は大洲市立長浜小学校の分校として名目上統合され、1979年には遂に廃止に至ったのである。
初等教育機関がなくなれば、以後、子育て世代の定着や流入は絶望的となる。小学校の廃止は、当地の衰退を決定付ける帰還不能点の一つであった。
安楽死が進む猫島
時代は下って、2022年9月時点で、青島の総人口は3世帯5人にまで減少しており、なおかつ、大半が高齢者である。一方で、島内には約100頭もの猫が生息している。本来、真水や食料も限られる小さな島には、これほど多くの猫を養う環境収容力はない。
住民やボランティアが猫達に水や餌を与える限りにおいて、辛うじて「楽園」が維持されているのだ。現実にはそうした献身的な活動があってさえ、栄養不足や猫同士の争いなどのために、極度に瘦せた個体や、傷を負った個体も目立っていた。対外的に宣伝される「猫の楽園」の実態は、本当のそれとは程遠い。
現在、青島と愛媛県本土の大洲の長浜港との間には、片道約35分の定期船が1日に2往復しており、これは住民や観光客の交通手段であると同時に、島民と猫に水や食糧、物資を運ぶライフラインでもある。少なくとも島に住民がいる間は運航が続くはずだが、遠くない将来、青島が無人島となったら、廃止される公算が高い。それは猫達にとって、「楽園」の終わりを意味する。
そのような事態を見越した自治体と動物愛護団体の手によって、2018年から2019年にかけて、当時島に棲んでいた220頭の猫全てに、去勢手術が施された。言わば、猫島の安楽死が選択されたのだ。
青島に住む人と猫は、恐らくは今の世代が最後になる。猫たちは一代限りの個体として、約400年間続いた有人島・青島の最期に立ち会う。その後、青島は渡航さえままならない無人島と化して、廃墟と共に海に閉ざされる可能性が高いだろう。
近年、突如として世界の脚光を浴びた「猫の楽園」は、島がその歴史の終わり際に見せた幻のような光景なのかもしれない。
愛媛県喜多郡 長浜町役場 広報ながはま3月号 わが町20年の歩み 1975
愛媛県喜多郡 長浜町役場 広報ながはま 昭和40年8月20日
愛媛県喜多郡 長浜町役場 広報ながはま 昭和38年8月号 No.78
愛媛県喜多郡 長浜町役場 町の便り 昭和32年11月号 No.27
青島~長浜航路改善協議会 青島~長浜航路改善計画 2013
川渕博之 離島振興における今後の取り組みについて 調査研究情報誌ECPR 2013 No.2
愛媛県史 社会経済2 農林水産(昭和60年3月31日発行)
愛媛県史 地誌Ⅱ(南予)(昭和60年3月31日発行)
長浜町誌 長浜町誌編纂会 1975
離島研究 : 瀬戸内の社会学 中桐規碩 著 高文堂出版社 2004.3
四国の民俗 大島暁雄 [ほか]編 日本民俗調査報告書集成 三一書房 1997.6
今泉忠明 猫はふしぎ イースト・プレス 2015
愛媛県生涯学習センター. 瀬戸内の島々の生活文化. データベース『えひめの記憶』.
AERA dot. 愛媛県・青島「猫の楽園」の未来 昨年の不妊・去勢手術後もトラブルがたえず…. 2019.2.22.
AERA dot. 猫の楽園「青島」の想像よりはるかに厳しい現実 2019.02.26
公益財団法人 どうぶつ基金HP。 2019.5.1 さくらねこ便り猫島
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