熊本県阿蘇山、現在も火山活動を続ける中岳火口から西に約5km離れた標高780m程の中腹に、急傾斜の赤い切妻屋根を備えた大型の廃墟がある。
「阿蘇観光ホテル」と呼ばれるこの物件は、近年、『呪怨』シリーズで知られる清水崇監督のホラー映画『輪廻』(2005年製作)や、心霊ドキュメントDVD 『稲川淳二 恐怖の現場』(2013年)のロケ地となって以降、九州でも指折りの心霊スポットとして有名になってしまった。
事実、webブラウザやYouTubeの検索結果でも、ほとんどのコンテンツで当物件は廃墟、または心霊スポットとして言及されている。
しかし、阿蘇観光ホテルと言えば、元々は戦前の国家事業にルーツを持ち、昭和天皇にも愛された由緒正しい名門ホテルであった。
日本ホテル建築の源流…昭和天皇も愛した名門ホテル
2019年、筆者は当時居住していた四国某県から、未明の愛媛県・八幡浜港に車で乗り付け、大分県臼杵港行きのフェリーに乗船した。早朝5:50発、距離にして67km、所要時間2時間25分の船旅だ。
臼杵港に到着した後は、国道57号線に沿って阿蘇方面を目指す。途中、いくつか寄り道を挟みつつ、阿蘇カルデラ周縁部の外輪山に到着する頃には、時刻は既に夕方に差し掛かっていた。この日は阿蘇中岳南の麓にあるペンションに一泊し、翌日の阿蘇観光ホテルへの訪問に備えた。
翌日は不運にも朝から雨が降っており、当初の予定に暗雲が垂れ込める。
幸い、昼前には雨足が弱まり、時折晴れ間が覗くようにもなったが、道中で立ち寄った「道の駅 阿蘇」から遠目に見る阿蘇の山々は依然として濃い霧に覆われており、天候は予断を許さない。
道の駅からは県道111号線(阿蘇吉田線)に入り、阿蘇カルデラの山々と原野が創り出す雄大な景色を横目に見ながら、阿蘇観光ホテルの付近を目指した。
到着後、ドローンでその姿を捉えに行く。
上空から見た阿蘇観光ホテルの姿は…
徐々に高度を上げると、濃霧の切れ間にその姿が浮かび上がってきた。
遠目には、建物自体は比較的原形を留めているようにも見える。
しかし、ドローンで寄っていくと、窓はほとんど全て破られており、垣間見える内部の様子からも、荒廃は明らかだ。