いざ「猫の楽園」へ
2019年、四国某県に在住していた筆者は、職場の同僚から沢山の猫が棲むという不思議な島の存在を聞かされ、興味を持って赴いた。「猫島」こと青島に向かう海の玄関口・長浜港は、「伊予の小京都」の異名を持つ愛媛県西部の街・大洲にある。
同年某日の午後、筆者は大洲市を斜めに二分する肱川に沿って県道53号線を下り、河口部にある長浜港へと向かった。
港の駐車場に降り立つと、早速、いかにも「猫の楽園」への玄関口らしい看板が目に入った。
この場所から、青島と四国本土を結ぶ唯一の交通手段である定期船「あおしま」が発着する。
港の待合所に掲示されている渡航前の注意事項によれば、島内には商店や宿はおろか、自販機なども含め、観光客向けの施設は殆どないという。青島は元来、島民の生活の場であり、観光客の利用は想定していないのだ。
また、観光地として有名になって以後も、島内に観光客向けのインフラと呼べるものは桟橋近くの待合室とトイレ程度しかなく、新たに整備しようという動きもない。
「あおしま」の船員から直接、往復1360円(2019年当時/現在は1400円)のチケットを買い、出航時間を待って乗船する。猫の顔をプリントしたクッション等が置かれる船内で、猫との出会いに期待を高めつつ、片道35分間の船旅だ。
島に接岸し、船から桟橋に降り立つと、早速、乗客を猫の集団が出迎えた。
定期船「あおしま」は、毎日午前・午後にそれぞれ1便ずつ往復しており、筆者が乗船した午後の便の到着時刻には、観光客向けに毎日、猫のエサやりが催されている。海沿いのメインストリートを港から左に向かって進むと、既に沢山の猫たちが、道の先にある餌場を目指して歩いていた。
餌場では、猫たちは尻尾を立てて夢中でエサに群がり、観光客の目を楽しませていた。島の猫は人慣れしているようで、中には人間の膝の上で無防備に寛ぐ個体もいる。まさに「猫の楽園」を体現するかのような牧歌的な光景だ。
ひとしきり猫の餌やりタイムが落ち着くと、筆者は島内の散策へと向かった。ところが、そこで目にした景色からは、「楽園」と一言には括れない青島の別の表情も見えてきたのである。