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両親が他界、遺されたのは「いらない実家」…現金の相続にこだわる妹が、実家売却を検討する兄に放った“驚きの一言”

『負動産地獄 その相続は重荷です』#1

2023/02/17

source : 文春新書

genre : ライフ, 社会

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実家売却を長男は快諾、妹は…

 兄は、そもそもどうでもよいと思ったのか、

「ああ、お前の好きなようにすれば。だって俺は帰国しても別にマンションがあるし。だいたいそんな不便なところから通勤なんてできないよ」

 とほぼ想定通りの返事。ところが妹が驚愕するようなセリフを吐いたのです。

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「あら、何言ってんのよ。あの家はお父さんが多額のローンを組んで私たちのために一生懸命働いて建てた家よ。売る、なんて絶対に許さない。お兄ちゃんってなんて冷たい人!」

 不動産の売却は物件の所有者全員の同意がなければできません。現金派の妹からの思わぬ浪花節。

「でも、どうするのさ、この家。郊外にあって最寄りの駅からもバスで25分。東京都心までは駅からさらに1時間以上かかる。家を貸すにも借手なんかいやしない。だいたい家を管理しているの、俺だろ」

 彼の述懐でした。

マンションもなかなか厄介な存在

 あたりまえですが、不動産はただ所有しているだけで、固定資産税や地域によっては都市計画税がかかります。家を維持していくには、マンションなら管理費や修繕積立金の負担が毎月発生します。戸建て住宅でも家の風通しや通水などをこまめにしていないと、特に木造住宅などはあっというまに傷んでしまいます。細かな修繕費用の負担、庭木の剪定などなど費用の塊です。

※写真はイメージです ©AFLO

 このように誰も使わない、そして誰の役にもたつことがない不動産であっても、不動産は引き継がれていくのです。車や機械であればこれをなくしてしまう、つまり捨ててしまうことができますが、不動産は家を壊せても、土地を削り取ってこの世からなくしてしまうことは不可能です。マンションに至っては自分の意思では壊すこともできず、月々の費用負担からも逃れることができません。相続財産の対象としてなかなか厄介な存在なのです。

 相続とは、世間ではなんとなく、税金の問題? とステレオタイプに考えがちなのですが、そうではありません。まず相続はどこの家でも必ず発生するものです。それは人が亡くなるからです。そして亡くなった人は何らかの形で「遺産」を持って亡くなるものなのです。

 普通の家庭で普通に起こるのが相続です。そしてその受け継がれていく遺産の中に、税金はかからなくとも、厄介者となった不動産が隠れているのです。

負動産地獄 その相続は重荷です (文春新書)

負動産地獄 その相続は重荷です (文春新書)

牧野 知弘

文藝春秋

2023年2月17日 発売

両親が他界、遺されたのは「いらない実家」…現金の相続にこだわる妹が、実家売却を検討する兄に放った“驚きの一言”

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