2月17日に公開される映画『シャイロックの子供たち』。原作者および脚本協力の池井戸潤氏、監督の本木克英氏、主演の阿部サダヲ氏による座談会「泣いて笑ってシャイロック」を一部転載します。(月刊「文藝春秋」2023年3月号より)
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〈映画『シャイロックの子供たち』(松竹)が2月17日に公開される。池井戸潤氏による同名小説を、本木克英監督、阿部サダヲ氏主演で映像化した。映画は小説と物語の展開が異なる完全オリジナルストーリー。池井戸氏は脚本協力として参加している。
東京第一銀行の小さな支店で起きた100万円の現金紛失事件。阿部氏演じるベテランお客様係の西木雅博が、同じ支店の北川愛理(上戸彩)と田端洋司(玉森裕太)とともに事件の真相と“犯人”を追ううちに、メガバンクに蔓延(はびこ)る闇が明らかになっていく——。
池井戸氏が「ぼくの小説の書き方を決定づけた記念碑的な一冊」と位置付ける小説はいかにして映画に生まれ変わったのか。池井戸氏、本木氏、阿部氏の3人が映画化の企画から撮影のこぼれ話まで製作の裏側を語った。〉
映画化は「正直『無理だ』と思った」
池井戸 最初に映像化の話を聞いたとき、正直「無理だ」と思ったんです。原作は10編から成る連作短編で、主人公は毎回異なり、支店内でさまざまな立場にある銀行員たちの姿を描いていますから。それを2時間の映画のなかに収めるのは至難の業だなと。しかも、映画で主役となる西木は、原作の中盤で行方不明になっちゃいますからね。
阿部 役をいただいて原作を読んでみたら、西木が途中で行方不明になるのであんまり登場機会がない。そんなに大変じゃないなって思っていました。
本木 主役だと思っていなかったって?(笑)
阿部 そうそう(笑)。だから、映画の台本が届いたとき、本当にビックリして。原作ファンの方が映画をご覧になったら驚くでしょうね、いつまで経っても、西木がいなくならないなって。僕もずっといていいのかなと思ったんですけど、池井戸先生が「こういう西木がいてもいいんじゃないか」と、アイディアを出してくださったんですよね。
池井戸 以前、小説は結末を匂わせる形で終わっても読者は納得したものですが、今はオチがあって登場人物のその後まできちんと書き込まないと、消化不良だと言われてしまう。それは映像作品で求められていることも同じ。観客の皆さんの期待に応えるためには原作の改編が必要でした。そこで、今回は脚本協力という形で参加させていただき、原作を改編するための助太刀をしました。西木中心の物語にして起承転結のあるストーリーに落とし込んでいきましたが、西木というひとりの銀行員の物語をどう決着させるか、最後まで悩みましたね。