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柄本明のアイディア

 池井戸 柄本明さん演じる沢崎肇は、唯一原作に登場しない映画オリジナルのキャラクターです。西木中心の物語に改編するにあたって、西木と行動を共にする謎の男として投入しました。

 阿部 先ほどちらっと話した「居酒屋で出会った変なおじさん」だ。あの人と一緒にいることで西木の人生が大きく変わります。ある時相続の相談を受けたら、ビルを複数所有する地主であることが分かって。「オヤジ、そんなにビル持っているのか」って驚いてね。

 本木 一見、ビルを持っているような人の出で立ちには見えません。柄本さん自ら、ヨレヨレのTシャツと短パンだったか、私物を持ち込んで、ラフな格好にしたいとアイディアを出してくださった。「こんな人、居ないと思いますよ」という声もあったけど、本人は「居るよ」と。

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 阿部 「昼間から蕎麦屋で飲んでいるようなお金持ちは普段はラフな格好をしている」とおっしゃっていました。

 本木 そうだ。「昼間から飲んでいる小金持ちのオジサンは、大体家賃収入で生活している」と言っていましたね。柄本さんの拠点である下北沢には沢崎みたいな人がいるんじゃないですか(笑)。

©2023映画「シャイロックの子供たち」製作委員会

〈登場人物たちは曲者揃い。出世から外れた支店長・九条馨に柳葉敏郎、超パワハラ副支店長・古川一夫に杉本哲太、支店のエース・滝野真に佐藤隆太、支店を調査する東京第一銀行本部検査部・黒田道春に佐々木蔵之介、取引先の不動産会社社長・石本浩一に橋爪功が扮する。〉

 池井戸 柄本さんの他にも、個性的な役者さんが勢ぞろいですね。

 阿部 初共演の方が多くて新鮮でした。支店の後輩役の上戸さんと玉森さんとも初めて。上戸さんは『半沢直樹』にも主人公の妻役で出ていらっしゃるから、池井戸先生の作品に慣れているのかなと思ったら、「(銀行員を演じる)男性陣の激しいバトルには関わっていないので、そうでもないんですよ」って。そういえば、『半沢』では専業主婦だったから“銀行勤め”は初めてだったと、あとで気がつきました(笑)。

 本木 先輩役者との芝居はどうでしたか。

 阿部 僕にとっては先輩役者のいる現場が久しぶりでしたね。柳葉さんとは20年ぶりぐらいに会いました。柄本さん、柳葉さん、それから橋爪さんの役は全員腹に一物あって怪しい。僕の目の前でその3人による駆け引きが繰り広げられる場面がありますが、こんな芝居をするんだと、近くでみられて幸せでした。

 本木 皆さん、独特な間を持って演じられていましたよね。なかなか台詞を言わないなあ、と内心ドキドキしたときもありましたが(笑)。

 阿部 あれだけ間を持って演じられるのはカッコいいですよ。

 本木 皆さん、すごく楽しそうに芝居をしてくださった。「超パワハラ男」の副支店長役を演じた杉本哲太さんは当初、抑えた芝居をされていたんです。部下を叱り飛ばすシーンでも、大声で怒鳴りつけたりしないで、ちょっと静かなトーンで怒りを表すことで怖さを出そうとしていた。でも、思いっきり部下を叱り飛ばしてくださいとお願いしたら、「やっていいんですか?」と、嬉々として演じてくださいました。

 阿部 大先輩たちの表情や動きがとても面白いので、そのあたりも是非注目してほしいです。

池井戸潤氏、本木克英氏、阿部サダヲ氏による座談会「泣いて笑ってシャイロック」の全文は、月刊「文藝春秋」2023年3月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

文藝春秋

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泣いて笑ってシャイロック