売りに出してはみたものの
そこで妹とも相談の上、自分たちの育った家ではあるものの、この先利用するアテもないことから売りに出すことにした。ところが不動産屋の返事はつれないものだった。平成バブル時代には新築であれば1億円台を付けたはずなのに査定額はなんと1800万円程度。路線価評価額以下である。不動産屋曰く、最寄り駅までバスで20分。バスも減便されて日中は1時間1本。都心まではさらに1時間以上かかる。エリア内の小学校もすでに統合されて、通学にも支障が出て小さな子を連れたファミリーには人気がない。ニュータウン内にあったスーパーも住民の高齢化とともに撤退。1800万円でも売れるかどうかは全くわからない、とのことだった。実際に売りに出してはみたものの、半年たっても問い合わせがない。
賃貸も考えてはみたものの、これらの条件下ではさらに需要がないことは明白だ。「売れない」「貸せない」「自分も住む予定がない」この三重苦の家の扱いに途方に暮れるのがAさん宅のニュータウン相続だ。
Aさんのケースはまだよいほうだ。売れていないとはいえ査定額は1800万円。都心まで遠いとはいえ、横浜市内へのアクセスは確保されている。市内に勤めていて通勤が車利用であればまだ売れる可能性があるだろう。首都圏ではすでに価格査定すら困難になったニュータウンが続出しているのだ。
解体しても放置しても、負担がのしかかる
では買い手も借り手もいない、利用価値を失ってしまった「負動産」や「腐動産」をこの先どう扱っていけばよいのだろうか。車や電気製品などの動産であれば、捨てることができる。ところが不動産は手放すことができず、手放せない限り永遠にお付き合いを続けていかなければならない存在だ。
Aさん宅の実情は残酷だ。翌年5月、Aさんの息子さんに届けられたのは実家の固定資産税通知書だった。年間の固定資産税は15万円。使いもしない不動産を管理する苦痛に加えて毎年税金を払わなければならないのである。管理が面倒だからと言って家を解体撤去すれば、小規模宅地に適用されている固定資産税の減額(固定資産税が6分の1、都市計画税が3分の1)がなくなる。税負担は数倍に膨れ上がるので必死に残された家を管理しなければならない。そして管理を続けられずに放置し、自治体から特定空家として指導、勧告を受けるようになれば、最悪小規模宅地等の特例をはく奪される可能性がある。
こうなるともはやニュータウンに残された不動産は資産ではなく負債以外の何物でもなくなる。そしてニュータウン相続は一次相続を経て、これからいよいよ二次相続が本番を迎える。全国2000か所のニュータウンで相続した家で途方に暮れる人たちが続出するのは、もうすぐ目の前のことなのだ。どうするニュータウン。