「拡大主義は取りません」
――いま、金融業界は大変化の時代を迎えています。2年前からのマイナス金利政策、それに伴う金利競争の激化、また「地銀再編」も各地で行われています。ここまで希望に満ちたお話をたくさん伺いましたが、あらためて頭取はこの状況下での「銀行のこれから」というものを、どのようにお考えでしょうか?
石井 環境は非常に厳しい、かつてない厳しさだと思います。とはいえ、私は常に未来志向で考えています。入りという面では金利が下がっても、新しい産業を起こしたり、増やしていくお手伝いをすることでご融資先は増えていくと思いますし、それによって資金需要も増えていくだろうと思っています。また、北海道の話で言えば、まさに課題先進地域なわけですが、逆に言えば様々な社会インフラの更新時期なんだと捉えています。特にシルバービジネス、リバースモーゲージなどは、大きな可能性がある分野だと感じています。
――ここ数年の金融技術革新も凄まじいと思います。仮想通貨はもちろん、銀行のサービスと対立するのではと思うのがフィンテックですが。
石井 もちろん単純に表面的には対立することもあると思います。ですが、これは競争するのではなく、連携していくのが現実的な路線だと考えています。アライアンスを組むことで、お客様にさらに高度なサービスを提供できればいいと思っています。
――この厳しい環境にあって地方銀行には、首都圏に不動産投資をするとか、ローン事業を拡大するといった道もあるのでしょうが、頭取はどんなお考えをお持ちなんでしょうか。
石井 拡大主義は取りません。私どものマザーマーケットはあくまで北海道。北海道とともに歩んでいく。地方銀行がなすべきこととは、その地域のことを大事にすること。それに尽きると思っています。
口を出さないファンドで、雇用が生み出せた
――石井頭取はかつて拓銀(北海道拓殖銀行)に在籍され、その後「失われた20年」をバンカーとして経験されても来ました。そこから得た“銀行哲学”とは何でしょうか?
石井 そうですね……。銀行業というのは「信なくば立たず」だと思っています。それはお客様の信頼という「信」でもあります。その信頼を得るためには、常に立ち止まって考えることが大事だと、これはいつも自分に言い聞かせていますね。
――先ほど、自分は未来志向だとも仰っていました。
石井 ええ、前をむくために、いつも後ろを一回振り返ることは必要だなと思っています。だから毎日反省の日々です。
――最初に伺った「石井ファンド」のお話に戻るんですが、出資企業は順調に成長しているんでしょうか。
石井 1件のデフォルトもありませんし、出資先の7割で売り上げが増加しています。それから8割の企業で1株あたりの純資産が増えています。そして、何より嬉しいのが、新たな雇用を60人生み出せたということなんです。
――雇用創出もファンド設立の目標だったんですか?
石井 正直、これはあまり考えていませんでした。もちろんKPIとして売上、経常利益、1株あたりの純資産、そして雇用創出というものは持っていましたが、これほどうまく雇用が生まれるとは思っていませんでしたから。こういう形でお手伝いできた実感を得られることが楽しいですね。と同時に、銀行にできることの本質とは何か考えさせられます。それはすなわち、お互いにとっての大きな喜びを生むことなんだと、今、あらためて思っています。
いしい・じゅんじ/1951年北海道芦別市出身。75年弘前大学人文学部卒。同年、北海道拓殖銀行入行。2006年北洋銀行常務、10年札幌北洋HD取締役副社長、北洋銀行副頭取を経て12年4月より頭取。18年4月に会長就任(予定)。
写真=吉川麻子