少子高齢化と人口減による厳しい将来を抱える“課題先進地域”北海道。そんな中、地方銀行としてユニークな取り組みを見せるのが北洋銀行だ。マイナス金利、金融の技術革新、そして地銀再編の波が押し寄せる銀行大変化の時代に地銀ができることとは。石井純二頭取にお話を聞いた。
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金融界のタブーに挑戦した全国初のファンド
――北洋銀行は昨年、創立100周年を迎えられたんですよね。
石井 はい。そして今年は北海道と命名されてちょうど150年目なんです。探検家の松浦武四郎による名付けなんだそうですが。
――その北海道が「課題先進地域」として厳しい見通しを抱えている中、北洋銀行では地方創生に向けて前向きなプロジェクトを色々と進めています。例えば頭取が就任されてすぐに設立したベンチャー支援の「石井ファンド」。
石井 正式には「北洋イノベーションファンド」と言います。その通称は、ファンド設立2年後に開いた会合で「アメリカではファンドを作った人の名前をつけるのが一般的なんだ」という話から生まれたもので、お恥ずかしいんですが。おかげさまで設立から6年目となり、現在35件、総額6億3500万円の出資になりました。
――金融界のタブーに挑戦した全国初のファンドだそうですね。
石井 「5%ルール」を回避した形で出資できるようにしたイノベーションファンドは全国で初めてだったんです。5%ルールというのは、銀行は企業に対してその資本金の5%までしか出資してはいけないという規制。しかしながら、私たちが支援したいのは主にこれからのベンチャー企業で、資本金は平均2000〜3000万円。その5%というのは100万円とか150万円とかですよね。これでは資金を提供する意味合いはあまりないだろうと。そこで、議決権を持たない種類株、優先株式を発行いただいて、それを引き受ける形で出資することにしました。
――議決権がないということは……。
石井 ええ、口が出せないということです(笑)。つまり「金は出すけど、口は出さない」というファンドなんです。
どうしても口を出したくなったりしませんか?
――それでいいものなんですか? 思うような成長をしなくて、どうしても口を出したくなったり、あるいは貸したお金が回収できるかといった不安が募りそうですが……。
石井 私は出資する企業がIPO、上場を目指さなくてもいいと考えました。とにかくその企業が成長すれば、私たちの目的は果たされるという信念です。というのは、このファンドの大きな目的は道内の「ものづくり企業」の基盤を強くし、成長を支えることなんです。北海道の産業構造上の大きな課題は「ものづくり企業」の割合が低いこと。他府県の平均よりも10ポイントほど低い、道内産業全体の9%ほどで、経済を浮揚させるには欠かせない施策だと考えたんです。
――出資にあたっての審査は、普通のものとは違う方法なんでしょうか。
石井 融資する上での審査基準は全くなくしておりまして、出資を検討する委員会にも融資畑、審査畑のスタッフは入れておりません。その代わり、技術力や成長性の目利きとなる専門家を外部からお招きして検討しています。収益回収のための審査ではなく、あくまでその企業が育っていくかどうか、成長性の見極めを重視しています。