「わからない」と言えない若者たち
しかし一方で、育成する必要はありませんが年長者としての役割を演じてほしいとは思います。「人」として、若者たちに「仕事に役立つ情報」を与えてほしいのです。
以前、大学の講義で「わからないことはわからないと聞いた方がいい」といった話をしたときに、1人の学生が「え? そんなことできない」と咄嗟に声を出しました。
「え? なんで?」と問うと、他の学生たちからも、「聞けない理由」が相次ぎました。
「そんなことしたらダメな奴だと思われる」
「こんなことも知らないの? とか言われそう」
「そんなこともできないのに、ここでバイトしてるの? って言われちゃう」
「聞いたら終わり。使えない奴ってレッテル貼られちゃうもん」
などなど、彼らの脳は「聞く=ダメな奴」という公式で埋め尽くされ、「聞きたくても聞けない若者」が量産されていたのです。
若者の「聞けない心情」が垣間見える調査結果があります。
日本労働組合総連合会が実施した「入社前後のトラブルに関する調査2022」です。
大学卒業後に新卒で正社員として就職した全国の入社2~5年目の男女1000名を対象に調査を実施したところ、新卒入社した会社を3年以内で「離職した」人が33.2%いることがわかりました。退職した理由のトップは「仕事が自分に合わない」で、40.1%です。
ところが、「新入社員研修や先輩・上司からの指導・アドバイスがなかった人」では、離職した割合は41.9%なのに対し、「指導・アドバイスがあった人」は30.9%と11.0ポイントも少なくなっていたのです。
さらに、「勤め先における不安や悩み」の相談先に、「上司や同僚」をあげる人の割合も、「新入社員研修や先輩・上司からの指導・アドバイスがあった人」では37.5%だったのに対し、「指導・アドバイスがなかった人」の22.9%と比べて14.6ポイントも高くなっていました。周りが仕事に役立つ情報をくれることが、組織への適応や相談しやすさにつながるのです。
私が新卒社会人を半年間追跡した調査でも、先輩や上司の情報が、新卒社会人の組織適応を促すことが示されています(※K.Kawai & Y.Yamazaki:The Effects of Pre-Entry Career Maturity and Support Networks in Workplace on Newcomers' Mental Health, 2006)。
調査では新卒社会人のメンタルヘルス(※「心身症状・抑うつ・自尊感情・ワークモチベーション」の4指標)に、「情報ネットワーク=仕事に役立つ情報を与えてくれる人」と、「友好ネットワーク=職場を離れても付き合いがある人」がどのように影響するかを、入社3か月前から入社半年後まで縦断的に検証しました。