わからないことを、わからないと言えない……今、そんな大学生が増えている。「聞く=ダメな奴」というのが、彼ら彼女らの価値観だという。
もしもそんな若者たちが会社に入社してきたら、どう対処すればいいのか? 「わからないと言えない若者たち」との付き合い方を、健康社会学者の河合薫氏の新刊『50歳の壁 誰にも言えない本音』より一部抜粋してお届けする。(全3回の3回目/#1、#2を読む)
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「後進育成」と書いて「怠慢」と読む
──部の全体ミーティングのあとに、管理職ミーティングがあるんですけど、どちらの会議もほぼ同じメンバーです。こんな状況なのに、上はことあるごとに、後進育成、後進育成って言うんですよ。そもそも私には、部下もいなけりゃ、育てたい後輩もいません。後進育成って、しないとダメなんですか?
社員800人程度の中小企業に勤める井上さん(仮名)は45歳。29歳のときに中途採用で入社して以来、40歳まで“下っ端”でした。社員の平均年齢が上がる中、ベンチに座って好き勝手な指示を出す“言うだけ番長”ばかりが増えていきました。
そんなある日、突然、課長代理に昇格。「とっくに昇進はあきらめていた」井上さん。
肩書きがつき、腐りつつあった心が息を吹き返したそうです。万年ヒラ社員が7割を超え(※生涯賃金、年金… 課長とヒラの出世格差の現実(日経ビジネス))、舞い戻った定年後再雇用の嘱託の人たちが現場にあふれる状況での昇進に、「新しいことができる」と期待したのです。
ところが、「課長代理」という微妙な肩書きは、言わずもがなの「部下なし管理職」。肩書きを与えることでベテラン会社員のプライドを守ろうという、会社側のちょっとした気遣いが込められたポジションです。なんの権限もなければ、会社から与えられた仕事も……かなり微妙です。
そこで人事担当者や経営者は、「後進育成」という言語明瞭、意味不明の仕事を部下なし管理職に押し付けるようになりました。
なんら権限のない、部下もいない「課長代理」に後進育成をしろという会社側の主張は、ある意味正論かもしれません。しかし、かつて上司が部下を、先輩が後輩を育成したのは、会社から言われたからではありません。「会社」がコミュニティとして機能していた昭和の時代の会社員には、帰属意識があった。だからこそ、同じコミュニティの一員である後輩や部下に上司は手ほどきした。それが美徳とされたからです。
もし、業務として具体的に明確化し、ゴールを決め、評価の対象として昇給につながるなら、課長代理もがんばります。ところが、会社はそこまでやる気もないのに、「後進育成」という言葉を、気分で繰り返している。
「後進育成」と書いて、「会社側の怠慢」と読む。少々言い過ぎかもしれませんが、やはり怠慢としかいいようがありません。