世間で流布する「働かないおじさん」という言葉。こうした流行り言葉は、ときに当事者たちに“多大な悪影響”を招くことをご存知だろうか?
50代おじさんたちが立たされている窮地、そして過剰な「働かないおじさん」報道の問題を、健康社会学者の河合薫氏の新刊『50歳の壁 誰にも言えない本音』より一部抜粋してお届けする。(全3回の1回目/#2、#3を読む)
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働かないおじさんは「呪いの言葉」
「働かないおじさん」という世間に流布する言葉は、ただの言葉ではありません。人の内面に入り込み、周りに伝染させる威力を持つ、「呪いの言葉」です。
「あれこれ試してみたんですが、ダメですね。っていうか、客観的に見ると、私も何もしていないと思われているんじゃないかって。私がここにいること自体がお荷物なのか? 周りとか関係ないと思えば思うほど、気になってしまうんです」
こう切り出したのは、某大手企業に勤めていた白木さん(仮名)、50代の男性です。白木さんは昨年、系列会社に出向になりました。役職定年をして、1年後の出来事です。片道、格安切符の辞令に、「ついに用無しか……」と落胆する一方で、「新天地はリセットするきっかけになる」と決意を新たに意気込みました。
ところが、がんばれど、がんばれど手応えがない。自分に注がれる周囲の“まなざし”に自尊心が揺らぎ、真っ暗闇の回廊に入り込んでしまったそうです。
白木さんの証言「心が折れそうになりました」
──関連会社への異動の辞令が出たときはショックでした。人事部長は「営業を強化したいので、これまでの経験を生かしてください」と言うけれど、実際には「うちの会社にアナタの居場所はない」という最後通告です。会社に迷惑をかける失敗をしたわけでも、損失を出したわけでもない。なぜ、私なのか? と悔しさ、怒りで混乱しました。でも、その一方で、人事部長の言葉にすがる自分もいたんです。
この1年間は屈辱の連続でしたからね。以前は、メールをチェックするために早めに出社したけど、役職を外れるとメールのCCからも外される。露骨ですよね。社外の人に連絡する事案もない、会う約束もない。今日中にやらなきゃいけない仕事もないし、会議もありません。
なので、出向はリセットするチャンスだと、不思議とそう思えた。
河合さんのコラムに、50歳の最大の武器は暗黙知だって書いてあったので、それに背中を押されました。自分が長年培ってきた知見を新天地で最大限に生かそう。よし、やってやろう! って、意気込みました。
ところが異動してみると、現実はそんなに甘くなかった。営業強化って言われていたのに、実際は事業を縮小させるのが私の役目でした。不採算部門をなくして、人減らしをする。……最悪です。でも、私はこれ以上会社の言いなりになりたくなかったので、必死で争いました。どうにか結果を出して、事業縮小をとどまらせてやろうと思ったんです。