伝染する「働かないおじさん」現象
やる気満々だったはずの白木さんは、50代への厳しい“まなざし”による「ステレオタイプ脅威(Stereotype Threat)」で心を痛めつけられていました。
ステレオタイプ脅威とは、「自分と関連した集団や属性が、世間からネガティブなステレオタイプを持たれているときに、個人が直面するプレッシャー」と定義され、その脅威にさらされた人は不安を感じ、自分自身もそれを自らの真の姿だと考えがち。ステレオタイプが内面化してしまうと、自尊心が低下し、自分への期待値を下げ、自己不信などを引き起こして、その能力や性格にまでダメージを与えることがわかっています。
たとえば、「女性は数学が苦手だ」というステレオタイプによって、実際に女性の数学の成績が落ちることは多くの実験で確認されていますし、「高齢者は物忘れがひどい」というステレオタイプは、本当に老人の記憶力を低下させることもわかっています。「50代は高い給料もらっているくせにモチベーションが低い」というステレオタイプもまた、おじさんのやる気を奪います。
「周りから何も期待されていない」「経験を話すと自慢だと勘違いされる」「余計なことをしてくれるなと思われている」などと、自ら「働かないおじさん化」していくのです。
しかも、「ステレオタイプ化」には伝染力があるため、「働かない、やる気のないおじさん」に囲まれた環境に身をおくと、その人の「働かないおじさん化」が加速する。追い出し部屋とは、いわば「働かないおじさん製造機」のようなもの。役職定年者があふれる現場の伝染力もかなり深刻だといわざるをえません。
私たちの言動の多くは、社会のまなざしという得体の知れない空気に操られています。自分の能力だと信じているものでさえ、まなざしが深く関係しているのです。
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