社内には、グループ会社から追いやられた社員や、役職定年で現場に舞い戻った人がかなりいたので、まずは、彼らのモチベーションを上げることから始めました。責任ある仕事を任せたり、企画を出してもらったり。彼らに危機感を持ってもらいたかったので、話をする機会も積極的に作りました。
自分ではあれこれ手を尽くしたつもりです。なのに、まったく手応えがない。想像以上に手強かった。私に敵意をむき出しにする人もいました。
で、ふと思った。
あれ? ひょっとすると、私も彼らと同じなのか? って。自分ではあれこれやっているつもりでも、客観的に見ると、何もしていないと思われているんじゃないか?
私がここにいること自体がお荷物なのか? って。周りとか関係ないと思えば思うほど、気になってしまって。もう、心が折れそうです。
企業の卑劣なやり方を戒めた時代
やる気満々だった白木さんを苦しめている“まなざし”。それは、社会に根深く刷り込まれた「50歳過ぎたら用無し」という空気感です。
「追い出し部屋」という、陰湿さとやるせなさが漂うその“部屋”の存在が、大々的に報じられたことを覚えていますか。
今から10年前の2012年の年の瀬。大手全国紙に、当時赤字にあえいでいたパナソニックグループの中に「従業員たちが『追い出し部屋』と呼ぶ部署がある」という文言で始まる記事が掲載されました。
当時の私のメモによれば、「100台ほどの古い机とパソコンが並ぶがらんとした室内に、さまざまな部署から正社員113人が集められ、退職強要とも受けとめられる“業務”を課せられている」といった、企業の卑劣なやり方が、その記事には記されていました。
会社側は、「新たな技能を身に付けてもらい、新しい担当に再配置するための部署。会社として退職を強要するものではない」と説明。しかし、集められた社員の中には「希望退職するか異動を受け入れるか」の二者択一で配属されたケースもあった。
似たような部署はソニーグループ、NECグループ、朝日生命保険などにもあり、自分自身が社外での自分の出向先を見つけることを「業務内容」としている会社もあったと報じられました。