「妊娠を理由に帰国させられたケースも…」
リンさんが逮捕された段階から2年以上にわたってサポートを続けてきた熊本の外国人支援団体「コムスタカー外国人と共に生きる会」の中島真一郎代表はこう話す。
「技能実習生として来日したリンさんは、妊娠を理由に帰国させられることを恐れていました。雇用主にリンさんを強制帰国させる権限はもちろんありませんが、実際に妊娠を理由に技能実習生が帰国させられたケースは複数あります。リンさんもネットで調べてそれを知っていたんです。妊娠を疑う雇用主に対しても頑なに妊娠を否定していて、他の誰にも相談できずに抱え込んでいました。技能実習制度が“現代の奴隷制度”と言われる理由がよくわかります」
リンさん自身も裁判では「帰国させられるのが怖くて誰にも相談できなかった」と話し、「子供の遺体を捨てたり、隠したり、放置していません」と一貫して無罪を主張している。
技能実習制度は、日本にとっては高齢化で減少した労働人口の補填ができ、途上国にとっては、日本の技術を学ぶことができる上に日本基準の給与が得られるという「Win-Win」を目指して設計されたものだ。
「ベトナムの地方では日本円にして年収30万円ほどで暮らす人も多い。日本での技能実習で年間に150万円でも稼げば、5倍になります。日本人の年収400万円の人が2000万円もらえると聞けば、たいていどんな仕事でも我慢しますよね(笑)。そんな誘い文句に魅力を感じて、来日のために多額の借金をしてまで来日する外国人技能実習生も多い。リンさんもその1人でした」(中島代表)
1年半で休日は10日ほどの過酷な労働
地方出身のリンさんは年収150万円程度が見込まれる“夢のような”技能実習生の応募を見て、日本で働くために家族で計150万円ほどの借金をして2018年8月に来日。1カ月の研修の後、熊本県の有機栽培で有名なみかん農園で働きはじめた。
巨額の借金に不安を覚える一方で、日本での生活には希望も溢れていた。しかし日本での生活は想像以上に過酷なものだった。
「技能実習生の労働環境は、日本人の感覚では超過酷労働かつ低賃金です。最初の1年半で休日が10日もないくらいで、『ただ働いて食べて寝るだけの生活だった』と本人が言っています。月収は住宅費などをひかれて、手取りで10万円から11万円。リンさんは2万円で生活して、借金を返済し、家族に送金もしていた。『もやしばかり食べていた』という状態だったようです」(同)