日本語もあまりできない状態で来日したリンさんにとって、同じベトナムから来ていた技能実習生の男性とSNSを通じて知り合い、交際が始まったことは数少ない楽しみだっただろう。そして妊娠に気づいたのは、つわりが始まった2020年5~7月ごろだった。
「おなかも大きくなっていたのか、雇用主も妊娠を疑っていたようです。しかし確認されても、リンさんは『していない』と言い張っていました。双子だったからなのか、雇用主から渡された妊娠検査薬ではなぜか陰性だったんです。大きな借金を抱えて来日したリンさんは少しでも長く働きたいと思っていたそうです」(同)
リンさん自身は「12月頃に雇用主に妊娠を伝えて、帰国させられるなら仕方ない」と覚悟を決めていたという。しかし想像よりもずっと早い11月14日に、陣痛が始まってしまった。そして冒翌朝の午前9時ごろ、双子の赤ちゃんを死産した。
「意識を取り戻したリンさんの行動は、2人の子供への愛情に溢れています。『強い子』『賢い子』という意味の名前をそれぞれにつけ、遺体をタオルで包み、『天国で安らかに眠ってください』と手紙を添えています。寒くないように、と二重の段ボール箱の中に安置しています。そして翌日の16日に、監理団体に連れていかれた病院で医師に初めて死産を告白した。警察官が駆けつけると、部屋には死産の際の血が部屋のあちこちに飛散した状態だったそうです」(同)
「裁判官は技能実習生の苦しい実態をわかっていない」
病院で死産を告白した3日後、リンさんは死体遺棄容疑で逮捕された。その後起訴され、2021年7月に1審・熊本地裁、2022年1月に2審・福岡高裁で有罪判決を受けた。
「双子の遺体を誰にも言わずに自宅に置いていたという事実に争いはなく、争点になったのはリンさんが遺体を故意に隠したか、もしくは適切な埋葬をせずに放置したか、という点でした。1審の杉原祟夫裁判官は、リンさんの行為はこの両方にあたり、罪は成立するという判断をしました。2審の辻川靖夫裁判長は、1日半という短い期間のため放置とはいえないと判断しましたが、二重の段ボール箱の中に遺体を入れてテープで封をしたことは『故意に隠した』として有罪を維持したんです」
中島代表は地高裁の判決について、こう批判する。
「段ボール箱に二重にしてテープで封をしたことについて、リンさんは『双子が寒くないように』と話しています。それに裁判所は『死産を(周囲の人に)告白し、助力を求めることはできた』と言いますが、技能実習生の『妊娠や出産が知られたらベトナムへ帰されてしまうかも』という苦しい実態を分かっていないとしか言いようがない。あの状況でリンさんが取った行動が悪いとは私にはとても思えないんです。最高裁が道理に沿った判断をすることを期待しています」
過酷な労働環境と失われた2つの小さな命。この悲惨な事件を最高裁はどのように判断するのだろうか。2月24日の弁論に注目が集まっている。