ある秋の夜、妊娠8カ月ほどの女性は自室で想像よりも早い陣痛に苦しんでいた。周囲には医者どころか、知人の姿すらなくたった1人である。妊娠を周囲の誰にも言えず、産婦人科へも一度も行っていない。一晩中陣痛に苦しみ、翌朝に出産。あまりの痛みに女性は気を失った。1時間ほどして意識を取り戻すと、傍らには息をしていない双子の赤ちゃんの遺体があった――。

 この女性は、ベトナムから技能実習生として来日していたレー・ティ・トゥイ・リンさん(23)。リンさんは2020年11月15日に死産した双子の遺体を遺棄したとして死体遺棄罪に問われ、1審と2審のどちらでも有罪判決を受けている。

「なぜこれが有罪になるのか」

亡くなった2人の赤ちゃんは、その後丁重に葬儀が行われた

 刑法の死体遺棄罪には「一般的な宗教的感情を害するような態様で、死体を隠したり放置したりすること」(1審判決文より)としており、殺人犯が被害者の遺体を山中に隠したり、年金を受給しつづけるため死んだ親の遺体を家で放置したりする事件などが想像しやすい。リンさんの場合は、双子の遺体を自宅に1日半、とどめ置いたことが犯罪とされたのだ。

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 しかし判決文などによると、リンさんは双子に名前をつけて遺体を丁寧にタオルで包み、追悼の言葉を添え、部屋の隅の段ボール箱に安置していた。その行動からは双子に対する愛情すら感じられ、リンさんを有罪とした判決には反対の声が強い。

「なぜこれが有罪になるのか」「リンさんは孤立出産に苦しみながら双子の赤ちゃんを大切にしていた」「外国人労働者に助けられている日本なのにリンさんにした仕打ちはひどすぎる…」(弁護団の意見書やSNSより)

遺体の入った段ボールが置かれていた棚

高まる逆転無罪の可能性

 2022年1月に福岡高裁で判決が出た後、リンさんの無罪を願う127通の意見書と9万筆を超える署名も弁護団によって提出されている。そして2022年12月、最高裁は検察・弁護側双方の意見を聞く弁論を今年2月24日に開くことを決めた。

「最高裁で高裁までの判決が覆ることはほとんどなく、弁論を開かずに上告が棄却されることが基本です。逆に言えば弁論が開かれるのは高裁判決が覆る可能性があるということで、リンさんが逆転無罪になる可能性はかなり高まっています」(大手紙司法担当記者)

 起訴されたら99.9%の人が有罪になると言われる日本の司法制度において、異例の逆転無罪。その可能性が高まっているリンさんの事件で本当は何が起きていたのか、そして背景にある“技能実習生問題”の闇とは……。