花街の大人たちは未成年へのセクハラを目の当たりにしても見て見ぬふりで、舞妓を守ってはくれない。Aさんはお座敷に出る中で、自分を守る術を身に着けていった。
お座敷に出て狂っていく舞妓の“貞操観念”
「その後もキスをされそうになったり、身体に触れられたりしたことは何度もあります。唇にキスすることを強制された場合はほっぺたなら……と、お客さんのほっぺにキスするとか、本当に嫌なことだけは回避する方法を学んでいきました。私は最初の体験がトラウマになって、男性に対し嫌悪感を抱いていました。でも、10代の半ばで下ネタが飛び交い、セクハラが横行するお酒の席に居続けると、感覚がマヒしてしまうこともあるようで……。
舞妓はんの中には貞操観念が緩くなってしまい、男遊びをしてしまうような子や、お客さんに体を許してしまう子もいました。本来なら許されることではないのですが、うまいこと隠していたり、本人たちの同意の下だからと、置屋もお茶屋さんも見て見ぬふりをしたりすることも多かったです。華やかな世界を夢見て入ってきた10代の舞妓はんが性的に乱れていく様は、とても直視できるものではありませんでした」
チップやお小遣いだけでは足りない厳しい生活
Aさんが言うには、未成年の舞妓が客と肉体関係を結んでしまう背景の一つに、切実な金銭事情があるのだという。
「私のいた街は、他に比べて舞妓に対する金銭的な搾取が強い傾向にあったと思います。舞妓はんになってからのお小遣いは月5000円ほどで、その中から自分がほしいものを買っていました。デビューからしばらく経つと、お客さんからいただくご祝儀(チップ)を管理できたのですが、そこからおしろい代や日々の生活に必要なものを買わなくてはなりませんでした。いくら節約しても、チップだけでは足りないので、結局は貯金していたお年玉を取り崩したりして生活していましたね」
そんな厳しい生活をしている舞妓も多いなか、さらに追い打ちをかけるようなこともある。
「街によるのですが、毎年行われる踊りの舞台のチケットを100~200枚ほど持たされて、お客さんに売り切れなければ借金になるような花街もあるそうです。
また、夏には舞妓の名前が入ったうちわをお客さんに配るのですが、それを置屋に勝手に発注され、8万円近く請求されたこともあります。普通に舞妓として働いているだけでは、こうした経費を払うことは到底できません。そうやって金銭的に追い詰められた舞妓が、『この人ならば』とお客さんに見初めてもらうために体を許してしまう……そういうケースも目にしました」