数年前まで舞妓だったAさんが花街で見たのは、舞踊公演のチケット代や舞妓として活動するための経費を押し付けられて金銭的に困窮し、男性客に体を許す未成年の姿。過酷な環境の中で耐え忍んでいたAさんだったが、修業期間を全うすることなく花街を去ることを決意した。
そしていざ舞妓を辞める時にAさんが置屋から渡されたのは、自分の“収入”が記された見覚えのない確定申告書だった――。
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「もう死んだほうがいいな」人間扱いされない日々
芸舞妓の知人に憧れて16歳で舞妓になったAさん。いざ入ってみて未成年の飲酒やお座敷でのセクハラなど、想像とは違った世界を目の当たりにして幻滅したものの、年数を重ねるにつれ徐々にお客さんのあしらい方も分かってきたのだという。
「2年くらい経つ頃にはお客さんのセクハラも軽く受け流せるようになっていました。その場を盛り上げる接客なども身に着いてきて、お座敷でのお仕事が楽しいと思えるようになりました。でも置屋暮らしからは一刻も早く抜け出したかった。
お母さんはいけずで、私がすること全てに言いがかりとも思えるようなことを言ってくる。一生懸命やっても上手く出来ずに困っていても、次からどう直したらいいのか教えてくれない。食事も腐りかけのものや、時には姉さんの食べ残しを出されることもあった。人間として扱われないような日々が続くうち、『もう死んだほうがいいな』と思うようになりました」
基本的に舞妓の奉公期間は5年とされており、デビューするまでにかかった多額の経費を5年間のお座敷仕事のなかで返していくということになっている。5年を待たずに辞めてしまうと経費は親に請求されるため、理不尽な目やつらい目に遭っても、辞めることを躊躇する舞妓は多いのだという。
Aさんも親に迷惑を掛けたくない思いからと、なんとか舞妓としての生活を続けていたが、5年の修業期間を全うすることなく、花街を去ることを決意した。
こうして花街から解放されることになったAさんだったが、辞める段になって“ある事実”を知ることになる。