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文春野球コラム

阪神・伊藤将司が愛するトマト担々麺 本格派の味と人情に包まれた「青春の一杯」

文春野球コラム ウィンターリーグ2023

2023/02/22
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  東京の中心部から約100キロ離れた千葉県勝浦市。この海(太平洋)と山に囲まれた人口2万人に満たぬ小さな漁師町に、多くのアスリートを輩出してきた国際武道大学がある。特に硬式野球部は昨年公式戦通算700勝を達成した岩井美樹監督が黎明期から指揮を執り、2017年、18年に全日本大学野球選手権で準優勝を果たすなど全国的強豪と言っていい。また、高校野球などの指導者を輩出するとともに、多くのプロ野球選手を輩出している。

 1年目から阪神の先発ローテーションを担い2年間で19勝を挙げている左腕・伊藤将司もその1人だ。人気選手の証ともいえる本拠地でのプロデュースメニュー「伊藤将司のとろ~りチーズ担々麺」も昨年から甲子園球場で発売されているが、それは学生時代に足繁く通った思い出グルメが元となっている。

伊藤将司 ©時事通信社

「そんなすごい選手だなんて最初は知らなかったんです」

 国際武道大は強豪大学にしては珍しく野球部専用の寮や合宿所が無い。そのため、各自が自炊して生活をしている。だからこそ食べ盛りの選手たちは自炊をしながらも馴染みの店で食事する機会が多くあり、特にご当地グルメの勝浦タンタンメンは各自が常連店を持っているほど。そんな中で伊藤もまた常連店で家族と接するような温かい時間を過ごしていた。

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「週3、4回は来ていましたよ。いつも頼むメニューは一緒。おとなしくて、とってもイイ子で、私は野球に全然詳しくないから、そんなすごい選手だなんて最初は知らなかったんです」

 伊藤のことをそう笑って振り返るのは、国際武道大の野球部グラウンドから車を走らせ6分ほどの場所にある『お食事処しんでん』の店主・野澤正子さんだ。

店主の野澤正子さん ©高木遊

 国際武道大の開学と同じ1984年に開業。時代はバブルに向かっていく最中で、建設関係の職人たちを中心に居酒屋として繁盛した。ところがバブルが崩壊すると客足は鈍り、店は存続の危機を迎えた。

 そんな時、勝浦市でご当地グルメとして名を馳せるようになったのが勝浦タンタンメンだ。海で冷えた漁師さんや海女さんに体を温めてもらおうと広まったとされている。しんでんでも以前から担々麺を提供していたため、昼営業も始め担々麺中心の店に衣替えした。

 厳密に言うと、しんでんの担々麺は「勝浦タンタンメン」ではない。醤油スープの上にたっぷりのラー油が浮かんだものが一般的な勝浦タンタンメンだが、しんでんの担々麺(800円)は鶏ガラとカツオから出汁をとった味噌スープでラー油は使用していない(数年前からはトッピングとして自家製の“食べるラー油”をのせている)。ご当地グルメとしての勝浦タンタンメンを統括する団体にもかつては属していたが、現在は属していない。

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