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「この車、売ったら殺してやるからな」ショップ展示車の“ダットサン210”を譲り受けた男性(81)が明かした意外な“愛車との思い出”

「この車、売ったら殺してやるからな」ショップ展示車の“ダットサン210”を譲り受けた男性(81)が明かした意外な“愛車との思い出”

ノスタルジーは時代を超えて #1

2023/04/15

genre : ライフ, 社会

 時代は変われど記憶は褪せず、けれども形あるものは消耗していく。旧車の魅力に取り憑かれ、経年劣化すら愛してしまったオーナー達の熱意に迫る!

 今回は、旧車イベント「ノスタルジック2デイズ」出展者のうち、およそ60年にわたってダットサンの210型を維持する佐々木徳治郎さんにインタビュー。

ダットサン1000・210型に約50年乗りつづける佐々木徳治郎さん

人生を共にしたダットサン

 この車はもともと、近所の小さな修理工場で、いつも店頭に展示されていたものなんです。50年ほど前の話ですが、大学で自動車部に所属していた私は、その工場での作業を見るのが好きで、暇を見つけては足を運んでいました。

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 初めのうちはオーナーから煙たがられて、「お前は毎日うるせぇな、とっとと出て行け」と追い返されたりもしたのですが、それでも懲りずに通い続けていました。そのうちに、オーナーは呆れるのを通り越したのか、「お前の目を見ていると、不思議と車を大事にしてくれそうな気がするよ」と言ってくれて、とても嬉しく思ったことを覚えています。

製造は1958年であり、生産から65年も動きつづけている

 そうしてある日、私がこの車を眺めていると、しびれを切らしたように「そんなにその車が気に入ったんなら、タダで持っていけ!」と……。ただし、「絶対に売るなよ。売ったら殺してやるからな。もし手放すときは、お前もその人にタダで譲ってやれ」という約束で、譲っていただけることになったんです。今思い出しても、感謝の気持ちは尽きませんね。

内装の様子から日頃の丁寧な扱いが窺える

 この車との思い出は数え切れませんが、一番の思い出は、自動車部の仲間と日本一周をしたことです。北海道に行った際には、ずうっとまっすぐな道が続き、ついついエンジンを回しすぎ、焼き付かせてしまうトラブルもありました。近くの日産ディーラーまでどうにか持っていくと、「お前ら自動車部だろ、場所だけ貸すから自分たちで直しなさい。部品はその辺のスクラップ屋にいくらでもあるから」と。

 自動車部とはいえ整備士ではありませんから、散々苦労しましたが、それでもどうにか走れる状態まで直し、そのまま北海道を回って……。本当に、この車のおかげで得がたい思い出をたくさん作ることができました。当時の自動車部の仲間とは現在でも付き合いがあり、催し事のたびに集まっては昔話に花を咲かせています。

リアの形状から、マニアの間で「ランドセル」と呼ばれることも

 今でも日本一周とはいきませんが、運転はよくしていますよ。車はしっかり動かして、愛情を注いでやらないと、調子を崩してしまいますから。もちろん古い車ですので、色々なところから異音もします。そのたび耳を傾けてあげて、「あぁここが痛いんだね、そろそろ替えないとね」と手をかけてやることで、元気を取り戻してくれるんですね。

故人との約束のとおり、「いずれはこの車を大事にしてくれる人に譲りたい」と語る

 この車を譲っていただいた方はもう他界されてしまったのですが、親戚やご子息の方がこれを見て、「あぁ、徳治郎はまだ大事に乗っているんだな」と思っていただけたらいいですね。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

「この車、売ったら殺してやるからな」ショップ展示車の“ダットサン210”を譲り受けた男性(81)が明かした意外な“愛車との思い出”

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